「お、お邪魔します」
「…すげェ洒落こんだ家だな」
「ここがなまえんちか!でけぇのな!」

「あ、ツナ君達そこにスリッパあるからとってね!」

「おい」
「あ、ザンザスさん」

ただいま帰りました、とまるで他人の家に上がるように丁寧に言えば、ザンザスさんは私を一瞥して、またリビングへ戻ってしまった。
「相変わらず、無愛想な奴だな」
呟いたリボーン君が私の肩に乗る。
どこか恐る恐るな様子のツナ君達をリビングへ案内する。


カカカッ
ドアの真横の壁に3本続けてナイフが突き刺さった。ヒー!とひとまず悲鳴を上げたツナ君。

「わああ!!ナ、ナイフが!」「ベルフェゴールてめぇ!!」
「…もうベル、危ないでしょ!」
「しっしし!何か文句あんの?王子なりのカンゲーなんだけど」
「ありまくりだよもう。」
「うしし…おかえりなまえ」
「ただいま」

「す、すごい、なまえ…あのベルフェゴールと普通に喋ってる」
慣れだよ、ツナ君
「アイツほんとに一般人ッスか十代目。こんだけ間近で凶器見てビビんねえなんて異常っすよ」
慣れだよ、隼人君
「もしかしたら、なまえって実はすげー強ぇのかもな」
ちがうよ、武君、じゃくしょうだよ

部屋の中を見渡す。
ソファに腰かけてお酒を飲んでいるザンザスさん。カーペットの上でゴロゴロ漫画を読み始めたベル。キッチンテーブルで(恐らく)イタリア語の新聞と英語の新聞と、うちがとってる夕日新聞を広げているスクアーロさん。

「ヴァリアー凄いくつろぎ様なんだけど!」
ツナ君、私もちょうどそう言おうとしてたところだよ。



「ドカス共。」

ザンザスさんの声で、その場の空気がピリリと張り詰める。
私は鞄をソファの横に立てかけてキッチンへ入った。

「用件は何だ」

ベルが漫画を置いて体を起こした。スクアーロも視線をそちらに向ける。
XANXUSの向かいのソファにツナとリボーンが腰かけて、鞄から例の封筒を取り出した時、なまえはキッチンから人数分のコーヒーをトレーに乗せて、彼らの前に置いていった。

「なー、王子ブラック飲めねんだけど」
「ミルクとお砂糖は自分で出してね」
「メンド」
「ちょ、ナイフこわい」
「俺はいらねぇ」
「いや一人だけ出さないのも…。あ!私ちょっと着替えてきますね」
「なまえ」
「大丈夫」
リボーンちゃんに声をかけられて私は親指を立てて笑った。
「すぐ戻りますから」

カチャ、パタン





「…」

心臓が、早鐘のように鳴り続けていた。
胸の部分をぎゅっと押さえ、私はそっとリビングから離れる。



大丈夫

みんないる、










「テメェ等の言う通りに家中調べ回ったが、カメラなんざどこにも無かったぜぇ!!」
「だが、これを見りゃわかると思うが、誰かがアイツの傍を付け回ってんのは確かだ」

テーブルに広げられた数十枚の写真。

そのどれにも映っているのがなまえだ。

眠っている写真が数枚。
部屋で勉強している姿や、キッチンで食事を作っている姿。その他にも、登校中、授業中など、場所も時間帯もまるで不特定で、しかもアングルも異なる。
つまりそれは、これが特定の位置から撮られたものではない事を示唆していた。


「…ここ見てくれよ」

山本が指差したのは写真の右下。

「撮られた日付が、全部昨日のなんだ」
「…や、ありえねーって」
「…ッオイ!ちゃんと仕事してんのかよ、ナイフ野郎」
「殺すぜ?オマエ」
「獄寺君!ベルフェゴールも!…今はそんな事言ってる場合じゃないだろ」

ツナに言われてしぶしぶ黙る獄寺。
ベルも懐からナイフを取り出しかけたが、今回は大人しく元に戻した。

スクアーロは写真から目を離さずに唸る。
「ヴァリアーをなめんじゃねぇ。この家程度の広さなら、ペーペーでも気配を嗅ぎ分けられる。」スクアーロは、とりわけ、と続けた。

「ここにいんのは俺達幹部だぞぉ」

リボーンは目元に影を落とした。
「ああ。だから、余計に解せねェんだ」

「…?」

スーツの内側から取り出した数枚の写真。
「これはなまえには見せてねェ」
「…あ?」
「見ても分からねェだろうからな」

それを受け取ったXANXUSは、一枚目の時点で眉をしかめた。
XANXUSの後ろからそれを眺める二人も、枚数を重ねるうちにそれに気が付いたらしい。

写真の殆どが、なまえの体の一部分のみを拡大して映したものだった。
手首、こめかみ、額、耳の裏、目、そして首。


「………


 急所、かぁ……!!」

XANXUSの手の中でボッと写真の束が燃えた。
残りの写真も全て燃やし尽くし、XANXUSは激昂を抑え込んだ様な不吉な色を瞳に宿して言った。

「これは、ボンゴレへの 宣戦布告だ」


プライドの高いXANXUSにとって今何よりも葬り去りたい相手は、目の前の沢田綱吉でも、イタリアにいる九代目でもない。
自分になめた挑発をしかけてきた、得体の知れない組織だけだった。

「必ず、この俺がカッ消す……!!」

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