「骸さん、どうらったびょん」

犬の問いに肩をすくめた骸。この前新調した小ぶりなテレビは、晩から今朝にかけてのニュースを大々的に報じている。
コンクリの壁に背中を預けていた千種がそこから目を離して、骸の体を頭からつま先までじっと見つめた。(怪我はない、)


「交渉の余地もありませんでしたよ」

原因不明の爆発。死傷者数名。瓦礫と化した酒場。
画面に映し出されたこの映像を目にした瞬間、犬も千種も作戦の失敗と、何より骸の身を案じた。
しかし彼はこうしてここにいる。


「あの男なら、あるいは、と思っていたのですがね」

「これからどうしますか」

「諦めるんれすか?」

「クフフ…、いえ、時間はたくさんあります」

ゆっくりやっていきましょう。微笑んで呟いた骸は、例の少女の姿を頭の中に思い描いた。――そうですね、近々、会いに行きますか。











XANXUSが玄関の戸を引くと、丁度なまえが靴を履いているところだった。
顔を上げたなまえが、あっと小さく声を漏らす。彼女の顔に一瞬浮かんだ些細な気まずさをXANXUSは見逃さなかった。

「お…おはようございます」

XANXUSは特に返事も返さずに、なまえの膝に痛々しく貼られた絆創膏を見た。この傷は一昨日、なまえがベルに追いかけられた時に転んでできたものらしい。なまえはXANXUSの視線に気付き、苦笑を浮かべる。

「鈍臭いんです、わたし」

「…ああ」

XANXUSが返事を返した事に少なからずほっとしたらしい。少し緊張を和らげたような口ぶりでなまえは続ける。

「昨日はごめんなさい」

スクアーロもベルも起きていないのか、静まり返った家の中でその声は妙にこもった。
昨日の晩に何度もおさらいした言葉を、手に汗握る思いで口にしたなまえ。

「私が考え足らずでした。今度からは気を付けます」

「…」

「…ザンザスさん?」

XANXUSは伸ばした自分の掌が少女の頭に乗る寸前で止めた。
(俺は、何を)
不思議そうにこちらを見上げるなまえと暫く見つめ合い、XANXUSの手はなまえの頭でなく頬に伸びた。そして、

「いは、いはひ!ひたたははははひいい!!」

「ぶはっ」

「いはいれす、らんらふさん!!」

その頬を千切れんばかりの力で引っ張ったXANXUS。満足したように手を離すと、丁度良いタイミングで玄関のチャイムが鳴った。

「なんなんですか…もう」

「さっさと行って来い、ドカス」

ほっぺたをさすさす撫でながらドアスコープで玄関の外側を見ると、ツナと隼人君がどこかそわそわしたように立っている。
(ねえ獄寺君、今変な悲鳴聞こえなかった?)
(まさかアイツじゃないっすよね…!?今ちょっと確認してみます)
「!」
なんて言って彼が取り出したのがダイナマイトだっていうんだから、私は大慌てで玄関を飛び出した。


「どこぞのドカスに攫われて、俺に手間かけさせんじゃねぇぞ」

「き、気を付けます!いってきます!」

扉が閉まる直前の忠告。
(昨日のような安易な考えではまずいんだよね…!私が、しっかりしなきゃ!)
気を引き締めて一歩踏み出したなまえが、段差につまずいてツナを巻き込み、盛大に転ぶのはそれから数秒後の話である。

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