今回の任務がジジイのもとから下りて来た時、俺は周りが思う程反発しなかった。
それが逆に不気味がられたらしいが、それすらどうでも良かった。日本に出向くのも、涙川とかいうガキを守るのも死ぬほど面倒だが、適当にやって適当に潰して適当に帰れば問題はねぇ。

涙川なまえが脅威なら殺しちまうのも手じゃねぇか
飛行機の中でどこかぼんやりとそんな事すら思った。
暇つぶしを目的に日本に来た俺にとって、そいつの存在はその程度のものだったのだ。

だが、どうだ、今のこの様は


「お兄さん」

苛立たしげに一人酒を噛んでいた俺の隣に、店の女がやってきた。日本人にしては背が高く色気もある、さっきまで俺の相手をしていたあのガキとは何もかも異なった大人の女。
胸元と背中の大きく肌蹴た赤いドレスを身に着けて、スリットからは長い足を垣間見せている。
「隣、いいかしら」黙っていれば肯定と取ったのか、女は俺の隣に腰かけてきた。

「外人さんね。日本へは観光で?」

「…似たようなもんだ」

「そう。楽しんでもらえると思うわ…きっと、ね」

女の手がするりと膝に置かれる。
「失せろ」
その言葉は俺の口から、何の遮りもなく出て行った。

「気分じゃねぇ」

「…なら、気分にさせてあげる」

女は食い下がった。面倒くせぇ。口の中で呟いて、手の中にあったグラスをガシャンと割った。
「聞こえなかったか……。二度は言わねぇ」
俺の怒りに当てられてそそくさと席を立っていった女。立ち替わるように、カウンターの向こうから人の良さそうな男が布巾とビニール袋を手にこちらへ近付いて来た。

「うちのものが、大変失礼いたしました」

手早く俺の割ったグラスを片付け、カウンターのあちらへ戻り新しいグラスに酒を継ぎ足して俺に差し出す。

「…」

「どうぞお気を悪くなされませんように…。XANXUS様」

「…名を出すんじゃねぇ」

「これは失礼」

「何故てめぇがここにいる。…六道」

「クフフ」

男の口から、先程のものとは異なった声が発され、男のブラウンの瞳は瞬く間に赤と青のオッドアイへと変貌した。ザンザスはさして驚いた様子もなく、差し出されたグラスに注がれた酒を喉に流し込んだ。

「おや。私の出したものを毒見もせずに飲み下すなんて…。些か不用心ではないですか?」

「匂いで分かる」

「敵いませんね」

「思ってもねぇ事を」

「クフフ……。では、話しを戻しましょうか」

白いフキンでワイングラスを磨いている六道骸の瞳がきらりと怪しく光るのをXANXUSは見逃さなかった。
「単刀直入に言わせてもらいます。

 あなた方の今回の警護対象…涙川なまえをこちらに譲って頂きたい」

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