私達が家についてから1時間ほどすると、玄関がガチャリと空いて「なまえー」と呼ぶベルの声が聞こえてきた。

「はーい」

「ふろー」

「はーい……ぎゃー!!」

「あん?」

血まみれだった。

私は悲鳴を上げながらリビングに転がるように駆け込んで、目だけで私の姿を追うザンザスさんと「どうしたぁ?」と軽い様子で尋ねてくるスクアーロさんの前を横切って収納棚に飛びついた。
掃除機やら何やらを倒しながら救急箱を引っ掴んで再び玄関に向かう。
するとリビングのドアを開けてベルが入ってきた。血まみれだ。ぎゃー。私はまた悲鳴を上げる。ベルに飛びつく。倒れるベルと私。

「何なのお前」

「ベベ、ベベルベルちがいっぱ……!!!」

「日本語話せよ」

「血がっ…血が、いっぱい出て」

「ん?あーこれかえ、」

「早く、ち、治療しなきゃ!!じっとして」

「だー!聞けよ!これ俺の血じゃねーの」

私はベルのボーダーのシャツに手をかけたまま固まる。
おれのちじゃない?

「…え?」

「さっきの奴の返り血」

「……じゃあ、ベル、怪我してない…?」

「そう言ってんじゃん」

身体から一気に力が抜けた。
何だ…
何だ…
ベルが怪我したわけじゃなかったのか…。私の早とちりか。

「び…くりしたぁ」

「ったく。つーか王子に飛びかかるとか何事?」

「え、あ、ごごごめん!」

「しかもなまえ、馬乗りで服脱がそうとするとか積極的だよな」

「ちっ…!!ちがっ」

ベルの上から慌てて転がり落ちる。完璧に遊ばれた私は顔が熱くなるのを感じて「お風呂沸かしてきます!!」と逃げるようにリビングを飛び出した。


「しししししっ…おっもしれー!」

「う゛お゛ぉい!ベル、テメェなまえからかって遊ぶんじゃねぇ!」

「あいつ面白れェんだもん」

「…ベル」

「やっべ」

ザンザスの纏う空気が不機嫌色になり始めたのを見てベルは潔く笑いを引っ込めた。そして思い出したようにポケットから黒いチップを取り出してザンザスに手渡す。

「…何だ」

「携帯のメモリー。ちょっと見たけど機密情報わんさか残ってる」

「んだとぉ!?」

「さっきの奴幹部だったっぽいんだよね」

「消したんだろうな」

「もち。」

XANXUSは暫くそれをすかしたりして眺めてから、スクアーロに投げ渡した。

「確認して来い」

流石に速すぎる、とそれを感じているのはスクアーロも同じだった。
長期戦覚悟でジャッポーネに飛ばされて、敵の情報がこんなにあっさり舞い込んでくるわけがねぇ。
ここは特に異論を唱えず、またもコートを持ってリビングを出た。
そこでちょうどなまえに鉢合う。

「スクアーロさん、おでかけですか?」

「あ゛あ」

「そうですか。あ!ちょっと待っててください」

ぱたぱたと台所にかけていき、直ぐに戻ってきたなまえの手にはラップに包まれたカップケーキが乗っていた。

「さっき丁度焼き上がったんです。小腹がすいたら、どうぞ」

「…有難うなぁ」

「助けてくれたお礼です」

はにかんで微笑むなまえ。
昨日出会ったばかりの人間にここまで気を許していいのだろうか、とスクアーロの中に一抹の不安がよぎるが、XANXUSもベルも、もちろん俺も、こいつのこういう大らかな性格は嫌いじゃなかった。

「いってらっしゃい」

「…お゛う」

なまえに見送られて、スクアーロは本部に向かい車を走らせるのだった。

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