窓の外が次第に暗い色を帯び始めた頃、ベルが体を起こして時計を見た。 「そろそろなまえ帰ってくんじゃね?」 「…」 「あのガキ共ちゃんと送ってくんだろうなぁ…」 「平気っしょ、アルコバレーノついてんだし」 最早定位置となったソファの上で目を閉じていたザンザスはふと目を開けて「ドカス共」と開口一番のたまった。 「出て行け」 「あ゛ぁ!?」 「さっさと行け」 「う゛お゛おい!!ここはテメェの家じゃねェだろうがぁ!」 コォォとXANXUSの手に宿る憤怒の炎。スクアーロは激しく舌打ってコートとベルを引っ掴み家を飛び出した。あのクソボスめ…!心配だから迎えに行けと素直に言やァまだ可愛げがあるもんを……!!言葉足らずにもほどがあるっつーか自分で行けぇ! 「クソがァ!!!」 「王子の耳元で騒がないでくんね?マジウゼー」 「駄目だぁ…腕がなまる」 「アンタも?じゃあストレス発散かねてちょっとそこで殺りあってかね?」 「手加減できねぇぞぉ」 「ししっ、なめてっと死ぬぜ」 二人がそれぞれ武器を構えた瞬間、「あれ?」とどこか気勢のそがれる声が少し離れた場所から聞こえた。そちらに顔を向けると体中に泥と草を付けたなまえと、沢田と、その守護者二人がこちらを見て突っ立っている。4人のそのやつれた様を目にして、ベルと俺は仕方なく武器を収めた。 「あの二人絶対今から戦おうとしてただろ!」 「でも喧嘩じゃなさそうだぜ?よう、ベル、スクアーロ昨日ぶり!」 「う゛お゛ぉおい!!テメェら何だそのナリは!」 「煩ェ!ロン毛野郎!」 「あぁ!?」 「ししっ、何なまえ。さっそく襲撃?」 「そうみたい。でも襲われたわけじゃなくて、つけられてるみたいだったからすごい寄り道脇道けもの道を通って来て…」 ベルがなまえの頭についた枯葉を取ってやっているのを見て、沢田達は露骨に驚いたそぶりを見せる。そりゃそうだ。俺も人にとやかくするこいつを見んのは初めてだしなぁ。 (ともかくベルがこいつを気に入ってるのは明らかだ。) 「帰んぞ。XANXUSの野郎が待ち侘びて、」 俺はなまえの頭を抱え込んで地面に伏せた。鋭い音を立てて石垣に斧が突き刺さる。 「なまえ!スクアーロ!!」 沢田の切羽詰まった声が聞こえる。 ベルが俊敏な動作でナイフを投げると、向かいの道の屋根の上にいた刺客の男が血を噴いて倒れ落ちていった。 「ベル!」 「分かってるっつの」 ベルの姿が一瞬のうちに消え、沢田達が俺となまえを囲んで四方に鋭く視線を飛ばす。 俺も意識を辺りに定めたがこちらに向いた殺気はもう無かった。 「チッ…無事かぁ!?なまえ!」 「…な、んとか」 なまえは地面に両手を突きながら、塀に深々と突き刺さった斧を青い顔で見つめている。 避けなけりゃこの斧は間違いなくなまえの胴を断ち切っていた事だろう。 こんな時、こんな相手になんと言葉をかけてやればいいのかスクアーロには分からなかった。それは悩ましげに目を伏せる沢田達も同じなようで。 「…なまえ」 沢田の声にも気付かないようだ。 本当ならば「泣くな」と言いたい。泣かれんのは非常に面倒臭ぇ。特に今、命を狙われているこの状況では。だが同時に、ついこの間まで何も知らなかった女がこんだけの目にあっているのに「泣くな」と言うのは流石に酷だろう。 どうすりゃいいんだ。 スクアーロがうんざり思いかけた時だ。 すっと持ち上がったなまえの両掌が勢いよく自分の両頬をビンタした。 「お、お前何やって」 「しゃらくせー!」 「…は?」 相変わらず顔は青かったが、拳を握りしめて空に吼えたなまえの瞳には確固とした決意が感じられた。 俺は思わず間の抜けた声を発し、沢田達もポカンとしている。 ――― 「泣きません、泣かない、絶対…に!」 スクアーロさんは身を挺して私のことを助けてくれようとした。沢田君達もそうだ。 護られている私がピーピー泣いているだけの存在になんてなりたくない。 弱いままではいられない。 泣き虫なままではいられない。 「護ってもらう価値のある人間になってみせます」 ぶはっと吹き出すような笑い声。振り返るとこちらにザンザスさんが向かってくる。ザンザスさんは何が可笑しかったのか、私の決意を聞いてくつくつと笑い続けている。 傍まで来たザンザスさんは私の腕を引っ張って起こし、ようやく笑うのを止めた。相変わらず口元には笑みが浮かんでいる。上機嫌だった。 「ガキが。言いやがる。」 「…ザンザスさん」 「帰るぞ」 私はザンザスさんに腕を引かれながら、振り向いて、ツナ達に手を振った。 「今日はありがとう!また明日!」 置き去りにされかけたスクアーロさんは「う゛おぉい!」とか言いながら急いで追いかけてきた。ツナと武は大きく、隼人は控えめに手を振ってくれた。 今日はとても怖い思いをしたけど、新しい友達ができたし自分がちょっと強くなった気がしたから、ひとえに悪い日とも言えないな。 ×
|