人は見かけによらないって言葉はこういう時の為にあるんだろうと思う。 クールな赤ちゃん、リボーンさんの話によると沢田君だけでなく獄寺君や山本君もツナ君率いるマフィアグループ・ボンゴレファミリーの一員なんだとか。 私は突然目の前に突き出された壮大な世界の全貌に圧倒されてしばらく口がきけなかった。というか信じられない。 私の日常は昨日と今日の二日間でだいぶ平凡とはかけ離れてしまった。今更「ドッキリでした!」みたいな展開は期待できそうにない。 「私…これから一体どうすれば」 「お前は何もしなくていいぞ。」 いつのまにかエスプレッソらしきものを喫しているリボーンさん。ウィーンと持ち上がった屋上のタイルの一つが役目を終えて元の床に嵌め込まれたのを見て、私は私の知り得ない裏社会の一角を垣間見た気がした。 「学校での護衛はツナ達が。日常生活はXANXUS達がお前を守ってる」 「え!?」 「どういう事ッスかリボーンさん!!」 「俺達が涙川さんの護衛!?」 沢田君達も聞かされていなかったらしい。あけすけな態度でリボーンさんは「そうだ」と言い放った。 「学校で何か起きねぇとも限らねェからな。俺が引き受けた」 「リボーン、またお前勝手に」 「これはヴァリアーだけの問題じゃねえんだぞ、ダメツナ。」 どこか威圧感を含んだ物言いに沢田君達は黙ってしまう。 …何だろうこの重々しい雰囲気。 (明らかに私の所為だよね) ビビリ、チキン、争い好まず平和を愛す。 これは私がかねてより掲げるモットーである。 「わ、わたし足早いんです!」 ちょっとした沈黙の末、4人の頭上には潔くクエスチョンマークが浮かんだ。私は慌てて言葉を続ける。 「む、昔から色々逃げてたから!あはは、学校ではなるべく一人にならないようにするし、登校も下校も、全力疾走するから…守ってもらわなくても、別にだいじょ」 私の頭の上にポンと手のひらが乗った。 沢田君だった。 「ごめんね。そうじゃないんだ」 そう言った沢田君はさっきの動揺した姿からは考えられないほど強い目をして私を見た。 「涙川さんを守るのが嫌なわけじゃない。っていうか、それは俺達の使命だし。リボーンの言う通り、涙川さんを危険に晒したのは俺の責任でもあるから…気を遣わせちゃって本当にごめん」 「…沢田君。……」 ちがうの、 ちがうんだよ。 ベルがいってた。 俺達がその事実隠蔽してなきゃ、誘拐も今の100倍。お前今頃死んでるぜ。って。 つまり私の存在が公になってしまった今、私は常に危険に身を囲まれている事になる。マフィアの世界は良く分からないけど、そこには武器や血や生死を賭けた戦いが付き纏っているはずだ。 「わたしの所為で、沢田君達を危ない目に合わせたくない」 突然腕が伸びてきて、私のほっぺたをぎゅっと抓った。 「いたたた」 「お前、弱っちーくせにそんな事心配してるんじゃねェよ!」 「え…ええ…」 「十代目はお強いんだ。テメーが思ってるよりずっと」 「そうだぜ」 「やまもとふゅん」 「な、ツナ?」 「涙川さん。」 私はひりひりするほっぺたを押さえながら沢田君を見た。沢田君はこちらが安心してしまうような笑顔を浮かべて私に頷きかけた。 「護らせてほしいんだ。俺達にも」 沢田君は見かけによらずマフィアのボスらしい。それでも、沢田君の率いるボンゴレファミリーはとても優しいものに、優しい人たちに、違いなかった。私は眉をきゅっとしかめて涙が出るのを堪えた。 「俺のことはツナでいいよ。俺も、なまえって呼んでいいかな?」 「う、うん!もちろん…!ツナ」 「まずはダチからってな!武でいいぜ。よろしくな、なまえ」 「、たけし」 「…獄寺隼人」 「ご、ごくでら」 「……隼人だ!」 「はやと君…――ありがとう、三人とも…!これからよろしくお願いします!」 ×
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