かつてないスピードで家事をこなした私と、協力的だったスクアーロさんと、朝方はわりと素直なザンザスさんとベルに救われて私は何とか遅刻せずに済んだ。とりあえず昨日はほんと忙しかった。 (沢田君…たしか2組だったよね) お母さん達が旅行に出かけた日は、沢田君宅にはなるべく迷惑をかけないようにしようと思っていたのだが…。これはもうちょっとした非常事態だ。 しかもザンザスさん達は明らかに沢田君を知ったような感じだったし。 よし、昼休みに会いに行ってみよう。 「十代目、購買行きませんか!?なんか期間限定クロワッサン出てるらしんすよ!」 「あ、それ俺も食いてーと思ってたんだよな」 「なっ!野球バカてめぇ」 「へえ、知らなかった!じゃあ3人で行こうよ」 「おう!」 「チッ…しゃあねえな」 今日も平和だな。ツナはそう思った。視線を少し脇にずらせば、友人同士で和気あいあいと会話を弾ませる京子の姿も見える。中学の頃より丸くなった獄寺君や相変わらずマイペースな山本とも良好な関係でいる。中学時代、色々あったけど今は平和なもんだ。うん、いいことだ。 ツナは殺伐とした昨日の出来事を都合よく忘れようと試みていた。 「あの…沢田君」 控えめにそう呼ばわったのは、聞き覚えのある声だった。 「あ?テメェ誰だ、十代目に何か用か!?」 「ちょ、獄寺君!」 「ハハッ、ちっけーのな」 「山本も…!」 獄寺君に睨まれ、山本にコンプレックスを指摘されたのは涙川さんだ。涙目でちょっと…いやとても可哀想。(でもちょっと可愛いとか思ったのは誰にも言えない。) 「あ、どうかしたの?」 「十代目、知り合いっすか?」 「隣の家の涙川さん。あ、こっちは獄寺君と山本ね」 「どうも」 ぺこりと頭を下げた涙川さんは確かに小柄だと思う。俺達の背が伸びたってのもあるかもしれないけど、涙川さんは京子ちゃんより少し小さいかな。 「沢田君!」「うわ!!」真剣な顔が急に近づいてきて思わずのけぞってしまった。 「ご、ごめんね…びっくりさせるつもりは」 「や!俺の方こそごめん!…何か用事あったんだよね」 「そう、そのことなんだけど」 涙川さんは考え込むように口を閉ざし、そして伏せていた目をようやく上げた。潤んだ黒真珠の瞳に見つめられて言葉を失う。俺はこの時点で「聞くな!」って超直感が働いていたはずなのに、どうしてか言葉を遮る事は出来なかった。そして 「昨日、もしかして沢田君ちで、何かあった?」 そして彼女は、俺が一番聞かれたくない核心をずばりと突いてきたのだった。 ×
|