結局、寝れた


うっすらと目を開く。何の気なしに壁時計に目をやった。8時10分。




「うあわぁああわああ!!」

「っ」

やばい!あと20分で出発しなきゃ間に合わない!!二度寝なんてするんじゃなかった!
飛び起きてベットから降りると、「ぎゃ!」何かを踏んづけてバランスを崩し「う゛ぐぉ゛!」転んでまた何かを踏んづけた。何かは何となく分かるから怖くて振り向けなかった。起きた瞬間に右手の拳にあたった感覚も私は忘れていない。ただただ振り返らずに自分の部屋に転がり込んだ。私の命日、今日かもしれない。


自分が思う最高のスピードで着替え、顔を洗って歯を磨いて髪にくしを通して身支度を終えた。この時点で8時15分。

「てんめー…なまえ、王子踏みつぶすとか自殺行為じゃね?」

「ごめんね!歯ブラシはそこの引き出し!スクアーロさぁああん!!」

「なんだぁ!!なまえ、テメェの所為で髪5本は抜けたぞぉ!」

「ごめんなさい!朝ごはん作るの手伝ってください!ザンザスさん起きてー!」

「……てめぇさっきはよくも」

「洗濯ものそこのかごに入れといてください、帰ったら干すんで!」


(忙しさに、救われた…。)





寝起きにも関わらずサラサラの髪の毛を振り乱しながらスクアーロさんは私の隣で卵焼きを作ってくれた。その同じフライパンの脇にソーセージをバラバラ入れると「豪快だなぁ」とどこか嬉しそうなスクアーロさん。大皿に少し乗ってるような高級料理も嫌いじゃねぇが豪快かつダイナミックな男料理の方が向いてる、のだそうだ。ちなみに8時21分。

焼き上がったトーストをお皿に乗せて、その脇に卵焼きとソーセージ。大皿にサラダと、別のカップにヨーグルトを入れてテーブルにセッティングした。
「ザンザスさーん!ベルー!ちゃんと起きましたー?朝ごはん出来ましたよー!」

上に向かって叫ぶと、歯ブラシをくわえた二人が吹き抜けの手すりから顔を出した。ベルが親指を立てる。よし。


「スクアーロさん、コーヒー沸かしてるので欲しかったら飲んでください」

「あ?どれだぁ」

「棚のコーヒーメーカーです」

「ああ」
私は鞄を肩にかけながら、一番頼りになるこの人にひとしきり説明する。

「もし家を空けるときは火の元を確認して鍵を閉めて行って下さいね、鍵は外の植木の鉢に合鍵がありますからそれを」

「任せろぉ。ってお前は食わねェのか?」

「時間ないので。じゃあ、宜しくお願いします!」

リビングを出ようとすると丁度階段から二人が降りてきた。

「なまえもう出んのー?」

「うん、部屋のもの壊さないでね!」

「しししっ、約束はできねーけどな」

「もう。…行ってきます!」

「行ってらっしゃーい」「気を付けてなぁ!!」二人の声に背中を押されてリビングを出る。


「おい」

靴を履いたところで背後から呼び掛けられる。「は、」返事をしつつ振り返ると、口の中に何かを突っ込まれた。「もごっ、む」
卵焼きだった。もごもご咀嚼しながら、焼き立ての卵焼きを手でつまみ口の中に突っ込んだ人物を見上げる。言わずもがな、ザンザスさんだ。


「てめぇは何も心配しなくていい」

「、ごくん…」

「分かったらさっさと失せろ」

くるり、大きな背中がリビングに戻っていくのを私は見つめ、そっとほころんだ口元で礼を告げた。
ザンザスさんは答えなかったけど聞こえていたと思う。
私はどうしてか軽い足取りで玄関を出た。8時30分のお話である。

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