私は雲の上にいた。人が乗れる雲の研究に出掛けた時、タンポポ色の気球から落ちたのだ。そんな私は身を以て摩訶不思議な雲の存在を証明した。文字通り飛び跳ねて大喜びする私は不意に横から呼びかけられる。「おい」


パチ

「……」

「……」

目と鼻の先には何を考えているのかさっぱり分からない男の人。ああ、そうだザンザスさんだ。寝起きの頭にしては怖いぐらい冷静に状況整理ができていく。昨日拉致られて同時に保護られて、夜中まで怪談に明け暮れ、話が尽きたらUNOにシフトチェンジ。その途中からブッツリ意識が途絶えている。多分寝てしまったんだろう、ザンザスさんの部屋で。

「おはようございます」

取りあえず挨拶。
「あの……叫んでい、いですか」

「いいわけあるか。カッ消すぞ」

でも分からない…!何でザンザスさんが私の隣に寝てるんだろう。


「わ、わたし昨日ここで寝ましたか」

「見りゃ分かんだろ」

「でで、ですよね。あれ?で、ザンザスさんは?」

「これは誰のベットだ」

「ざ、ザンザスさん」

「ここは誰の部屋だ」

「ザンザスさんですね、はいすいません!」

自分の部屋で寝て何が悪いと、そう言いたいのだろう。いやでもさ!寝ちゃった私は100パーセント悪いけども…ザンザスさんの怪力は周知だし、ひょいと持ち上げてソファなり私のベットに下ろしてくれるなりしてくれても………。やめよう。高望みは悲しくなるだけだ。
きっと面倒だったんだ。あらゆることが。
壁の時計は6時を指している。あんなに遅かったのによくこの時間に起きれたものだ。

「起きます」

「早ぇ」

間髪入れずにそう言われた。


「学校の用意する…ので…、ざ、ザンザスさん」

腰にぐるりと巻きついた腕を意識した途端顔がぼっと熱くなった。まだ薄暗いから見られていないはず。そうであればいい。というかよく今まで平気だったな、なんて今更思う。やっぱり寝起きの頭はパーでした。
こんな日本人離れした(あ、日本人じゃないや)きれいな顔を。こんな至近距離で見て赤面しない女子高生がいるならぜひお目にかかりたい。弟子にしてほしい。


「出発は、いつだ」

学校へ、ということだろうか。

「は…八時半です」

「ざけんな」

「えええ!」

「まだ2時間も寝れるじゃねぇか」

再び目を閉じたザンザスさんの腕の力は増すばかり。私は今やぴったりくっついてしまった身体にひたすら焦る。何これ。何だこれ。

「寝ろ」

「でっ」

「寝ねえなら犯す」

むちゃいうな!そう思った。

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