「ザンザスさん達はイタリアで、大きなお屋敷に住んでいたんですよね」 攫われている時にベルが教えてくれた。 「ああ」 「うちのベット固いですよ。だからやっぱり住むのはホテルの方が」 「問題ねぇ」 ピンポーンと呼び鈴が鳴り、ザンザスさんが顎でしゃくる。はい、行ってきます。 「はーい」 「お届け物でーす」 「どうぞー」 玄関にある引出しからハンコを取り出して戸が開くのを待っているとガタッ、ゴトッと何かがぶつかるような音がした。この時点で私の中の危険信号はガンガン警告音を鳴らしている。扉が開いた。 「お、とどけものでーす」 汗だくの配達業者のお兄さんの後ろに大きな箱が見えた。――ベットだ。私には分かった。 「中へ運べ」 「ざ、ザンザスさんっ」 「この家で一番広い部屋はどこだ」 運び込む気だ! 「そ、それはっ」 「言え。カッ消すぞ」 「二階の父のウクレレルームです」 ウクレレルームとは、お父さんが趣味のウクレレを皆に披露したり一人で練習したりするためにだけに作られたあんまり何もない部屋のことである。 「フン、あのカスが」 「え?」 「そこへ運べ」 ザンザスさんは業者の人達にそう言いつけると一人リビングに戻って行ってしまった。「そこ」と言われても業者の人達は家の構造などさっぱりなので、結果的に私が案内することになった。 こうして、私の家にすごく場違いな高そうなベットはやってきたのであった。 ×
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