時計を見ると短針が9を過ぎたところだった。もうこんなに時間が経ったのか。楽しい時間は早く過ぎるというけれど、楽しくない時間も早く過ぎるなら同じことだなと不毛な事を考えた。ちょっとした現実逃避でもある。そんな中ザンザスさんがおもむろに口を開いた。


「…事が済むまで、お前は泣かねぇ事だけ心がけろ」

「え…?」

「それだけで俺達の仕事が減る」

素直に頷きたいところだが、私実はとても泣き虫なのだ。
出来ない約束をして怒鳴られるのはいや。(…でも)

「…」

――ザンザスさん達は私を守りに来てくれたんだよね。
第一印象こそ最悪だったが、その事実に偽りはなさそうだ。自分を守ってくれる人達に協力するのは、人として当たり前な事のように、思う。

「が…頑張ります」

ザンザスさんはチラリと私を一瞥すると微かに頷いて、またウィスキーを傾けた。
立ち上がったベルが私の頭をポンポン叩いて歯を見せる。元気付けているらしい。森で追い掛け回されたことは、何となく今ので帳消しになった気がした。


ぐうう

「………べ、べベル、おなかへったの!?」

「お前だろ」

「う、(恥ずかしくて死ねる!)でもだいじょぶです、ほら!私ポッキーあるし」

鞄の中からお馴染みの美味しいお菓子を取り出せば僅かに眉をしかめられた。見かねたらしいスクアーロさんが、わざとらしく濁音でそれを遮る。

「う゛お゛ぉい!!俺も腹減ったぜぇ」
「ししっ。王子も」

「出前でも取れカス共」

「ち、近くにポッカポカ弁ありますよ」

「ンな安いモン食えるかぁ!!」

こうして、私達は少し遅めの夕ご飯を出前でとる事になった。

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