「お母さん、いま、旅行中なんです…!1週間前だから今…ええと、どのへんだろう、分からないけど、助けて」 「そっちなら心配いらねぇ」 「あの二人実はアホで、それで……え?」 「もう手は打ってある」 男の人、ザンザスさんはそう言ってまた静かにお酒を飲み始めた。立ち尽くす私を不意に襲うひざ裏の衝撃。多分、ベルによる膝かっくん。ぎゃひん!とうら若き乙女ならぬ奇声をあげて前倒れになる。 「……」 ザンザスさんの膝が顎に直撃。痛くて堪らない!悶えながらも怖くて上は向けない。後ろでベルが大爆笑していた。このやろうと思いました。 「泣くな」 「は、はい!まだ泣いてません」 「ならいい」 怒られなかった。ほっと息を吐くと、両脇に手が差し込まれて有り得ない事に持ち上げられた。しかも軽々と。ベルといいザンザスさんといい人間離れした腕力をお持ちのようだ。 冷静に解釈している間に、私はなぜかザンザスさんの隣に下ろされた。(あ…叫びそこねた。) 「……あの」 「…何だ」 「もう少し、離れて座りたいんですが」 「るせぇ」 「…」 こっそり離れようにも腰に回った腕がそれを許さない。日本人はシャイなのだ。その辺ちゃんと理解していただかないと困る。顔が熱くなるのを感じながらなんとか平静を装い、斜め上を見上げた。 「、あ」 「…」 ぱちり。 これでもかってくらい、目が合った。 ×
|