1-1:おいでませ逢坂寮![ 3/16 ]
平川先生の目線は自習をするスペース。
「おーい智ー」
図書館にも関わらず、先生は大声で叫ぶ。図書室ではお静かに。
その声を聞き、呆れ顔をしながらこちらを見た人がいた。
「……図書室内くらい静かにしたらどうなんだ? 仮にも教師だろう」
図書室のイメージに合ってる。いかにも図書館にいる文学少年って感じがする。
真面目で大人しそうな男の子だ。
「仮じゃないから、教師だから……智、この子が今日から寮に住む加賀華ちゃん」
平川先生は笑いながら私を紹介する。
そうです、自己紹介が目的でした。
「あぁ、昨日言っていた……俺は犬飼智【いぬかい とも】だ、よろしく」
「智くん、よろしくお願いします!」
そう言って私は智くんと軽く握手をした。
「時間ないから次行くよー華ちゃん」
図書室内というのをお構いなしに普通に喋る平川先生。
やる気のない顔で「あー忙しい」と言っている。
あまり忙しそうには見えないんだけどなぁ、図書館に来るのもゆっくりとした足取りだったし。
というか私のせいで忙しいってことになりませんかそれ。
「平川は図書室に来るな。迷惑だアホ教師」
手で追い払うような動作をしつつも、智くんの目線は本にいっている。
平川先生のことなんてどうでもよさそうだ。
「はいはい。いなくなりますー」
ひらひらと手を振って図書室から出て行く。
平川先生に続いて私も図書室内から出た。
一緒に行動するにつれ、平川先生が優しい人というよりは、大人というより子供に近い人に見えてきた。
まだそこまで一緒に行動を共にしたわけじゃないはずなんだけど。
何でだろう……?
図書室を出て、何処かへ向かっているのか歩みは止まらなかった。