12.5.27 麒麟とケーキ
ケーキは甘い。
ドレスはかわいい。
お嬢様とはおしとやかであるべきだ。
「どうしましたか、ドゥルー?」
「ううん、なんでもないよ、フロル」
散々教育係に言われている言葉を頭の中で反芻して、ドゥルーはテーブルに鎮座するケーキに手を伸ばします。
さくっ
甘い、甘い味覚が喉奥にまで浸透すると、胸やけがひどくはげしくなる感覚。
向かいでケーキを食す親友は花もこぼれるような笑みで、ゆっくりとそれを食す。その姿は世で言う典型的な『お嬢様』のはずです。
ドゥルーことドゥルシラはケーキのような甘ったるいものよりも、スパイスのきいたカレーだったりのほうが好みでした。それもスプーンで大口あけて食事したいものですが、それが無理難題であることなど重々承知でしょう。
ドゥルーは見た目と年齢こそフロルより年下なのですが、精神的には子供のなかでも大人びた一面をもつ少女です。無邪気に遊ぶ傍らでひっそりと考え事だってします。そして、自分の状況をきちんと理解している聡い子でした。
だからこそ、自分がどのように振る舞えばいいかわかっていましたし、そのつもりだったことでしょう。それでも羽目を外したりするのはドゥルーがまだまだ子供だからであり、しかし無邪気に、とは言えない様子でもありました。
あくまで形式を重要視して行われるティータイムは、客人を合わせても二人しかいないというのに、並べられたものを見る限りでは四人前を裕に越えています。ほぼ毎日繰り返されるというのに、余った分はどうなるのだろう、とうすらぼんやりと考えドゥルーはまたケーキに手を伸ばしました。
さくっ
今度は甘味が薄く代わりにぴりり、と舌を刺激する味を感じ、ドゥルーは眼が落ちそうになるほど両目を見開きます。
「ドゥルシラおじょうさま、お気づきになられましたか? 本日の一品には、東国のスパイスをきかせた甘さをおさえたものとなっています」
すかさずマカ――メイド見習いで自分よりも幼い子、そして自分と同じ色違いであるマカロン――が、料理長から教えてもらったのでしょう情報をながしてくれました。
「お気に召しましたか?」
「――うん、おっどろいた。とっても、おいしい!」
「よかったですわね、ドゥルー」
フロルは微笑み、マカはへにょりと笑います。ドゥルシラは執事に叱られない程度の一口でちまちまとケーキを食していきます。
「おいしかったー!ごちそうさま! それにしても、なんで今日はこのケーキが?」
「それは私が説明いたしますわ」
「フロルが?」
「ええ、そもそも、ドゥルーは甘いものが苦手なほうでしょう?」
「……よくわかったね」
「親友ですもの!」
ふふふ、と得意げなフロルは珍しく、いつもはそれがドゥルーの役割だから尚更のこと。
フロルは続けます。
「それで、ドゥルーのために甘さが控えめで、且つスパイスのきいたものが作れるのか、頼んでみましたの。結果はドゥルーが教えてくれましたし、大成功ですわ」
ねぇマカ?と聞き返すフロルに、わたわたと慌てつつも肯定の言葉をかえすマカと。
それからきっと、この屋敷中にいる人々がこれを考えてくれたのかと思うと、ドゥルーはどうにもじんわりと心があたたかくなるのでした。
空になったケーキ皿を見つめ、ぽつりとドゥルーはこぼします。
「あたしのために、そんな」
うれしい、という呟きは空気に溶け込み、確かにフロルとマカの耳に届きました。
ケーキが甘くなくたって、お嬢様がおしとやかでなくたって、自分は自分らしくあればいいのです。
そう気づいた、午後のこと。
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ドゥルシラ:★ゴローニャ♀
フィオーレ:ロゼリア♀
マカロン:★ミミロル♀
ハワさんより一万打リクの「お屋敷組」です。「お嬢様二人でほのぼの」とのことでしたので、お茶会での会話風景にしました。
リクエストありがとうございました!これからも拙宅をよろしくお願いします。
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