12.4.7 anxiety
悪夢を見ていた。
起きると全身びっしょりと汗をかいていて、どくどくと心臓の音がはげしく鳴っているのがわかった。
その夢は、月のない夢、真っ暗な闇の中私はパートナーをつれて先へ先へと進んでいく。
不思議なことに、私の足元だけは光る小石のようなものがきらきらとしていて、それが遠くまで続いている。
私は戸惑いながらもその小石の道標を辿っていく。
(まるで、星みたいだ)
ふ、と道標は途絶える。この先はないみたい。星の道標を失い、私は立ち止まる。
戻ろうと振り返れども、いつの間にか道標は消え去り、また辺りが闇に包まれた。
しん
きゅ、と服をつかみパートナーのボールに触れる。暗闇の中で取り残されてしまったようで、ひどくこわくなったのだ。
しん
静寂の中で聴覚は私の息だけを認識する、吐息が大きく聞こえるのは自分がひとりだけなのだということを教えてくる。
もしかしたらこの夢はずっと続いて、私はこの中で永久に一人なのではないか。
そんな馬鹿げたことさえも思いはじめた時だった。
「……?」
闇の中に深まる闇が、ひとつ。
それと同時に辺りがぼんやりと明るくなりはじめた。
闇の中に現れたのは私の知らない『ポケモン』。
『…………』
「ええと、あなたは……?」
一応話し掛けてみたものの、コミュニケーションはとれそうにない。いや、当たり前なんだけどね。
その子は黙り込んで、でも目線はずっと私をみつめたまま。
私はじい、とその目を合わせる。
濃い闇に紛れてしまう体色は紫で、全体的に冷たく見える。ターコイズの瞳は――、
ぞっ
「……っ?!」
瞳を見つめ、そのまま吸い込まれそうになって。その奥にまでゆこうとすると背筋から悪寒が走ったのがわかった。
私は後ろに一歩、二歩と後ずさる。
目の前のポケモンは私をじぃと見つめている。
どっどっどっどっ
よくわからない、理解できない恐ろしさが襲う中、ポケモンは語りはじめる。
『君の力は強い、だからこそ周りに悪夢さえ見せてしまうんだろうね』
「……わたしが、わるいの?」
『……近くに満月島がある、先には新月を照らす者がいるはずさ。ここは新月島、僕の名はダークライ、おそろしい夢を見る者は、三日月の者の羽を与えてご覧』
すぅっと『ダークライ』は消えていく。
闇は深まり、私の意識も落ちていった。
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悪夢から覚めたら、そこは見知らぬ小屋の中で、慌てて外に出ると近くにいたおじさんが「その小屋は数十年も昔から空き家だよ」と教えてくれた。
ぶるり
あれは、夢だったのかな。
悪寒が背に走る感覚が、ひどく夢の中に似ていて恐ろしくなった私は図書館へと走り出したのだった。
(空のボールの中に重みを感じたのは、何故かということも考えずに)
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(不安)
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