12.4.4 騙されていてあげたのに
「結局、お前はわしに誰を重ねとるんったい」
「は、」
あまりにも唐突なことだったと思う。
「す、スッピーったら何言ってんの? 虚言?」
「笑えない冗談はやめるね」
「……」
「わしはお前が憎くてたまらん。だからお前の弱みを握ろうだとか馬鹿なことを考えて、観察してきたつもりったい。わしはお前を見てきた、じゃけんお前はどうかね? わしの後ろにでも何かたっとるんと知らんけ、そこばっかり見てるんじゃなか」
――紫苑、駄目ですよ。嘘をついていますね?私には小見とおしですよ。
「大体なんね?! お前は何処から逃げとーよ。地に足つかんみたく、ふらふらして、なして立ち向かおうとせん」
――まったく、そんなことでは強くなれませんよ。その方法もひとつの手ですが、真っ向勝負というものも仕掛けてみなくては、ただ逃げてるだけにしかなりませんよ。
「だって、」
「だっても何もあるか」
――言い訳ばかりがうまくなって。
「だって、スッピーが、スピカが、君が! 師匠に似てるのがいけないんだ……」
まるで生き写しのようだと思った。最初は師匠なんじゃないかと見間違えたくらいだ。
口調は師匠よりもずっと悪かったけど、本質はひとつもかわらなくて、スッビーはただの意地っ張りだとわかるとなんだかおかしくてたまらなかった。
違うところは多々あったけど、それさえもまた重ねてしまって――。
「騙されていてあげたのにさあ、スッビーは馬鹿だ、大馬鹿者だよ」
「それはこぎゃん台詞とね、そんからどういう意味が言ってみるったい」
「その通りだって言ってんのー」
この関係はね、気づいたら終わりなんだよ。君が気づいてないからあの関係でいられたんだ。
どうしようかな、と思案した。もしかしたらまた身を眩ませなきゃならないかもしれないから。
でも、
「逃げるんと?」
――逃げるんですか?
追複する声にそれこそ馬鹿らしくなって、「逃げないよ」と答えたのは誤算なのだ。
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紫煙:マルノーム♂
スピカ:フライゴン♂
ミト:ホエルオー♂
逃げだしたのはあちらのほうなのに。
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