12.3.14 ニュクスの花瞼
いつからだろうか、自分の世界がモノクロームでしか見えなくなってしまったのは。
多分、このカメラを手にした頃からなのは確かだと思う。
映像は、人の目よりも確かに現実を伝えてくれる。無機物から覗く世界はありのままを客観的に示してくれるから。
私の右目は、色を識別することができない。ただ明暗をグレースケールの色調で伝えるくらい。鮮やかな色彩は左目が教えてくれるけど、アンバランスな視界じゃあ平面的にしかとらえられなくて、プロジェクターか何かで映されたものを見ているようにしか感じることはできなかった。
私の瞳が映し出す世界はひどくさみしくって、だからこそ何度見ても変わらずにそれでいて綺麗な写真に魅せられた。
写真をやっていて楽しい、と思う瞬間はいくつかある。その中でも、特に写真を現像する瞬間が好きだ。
真っ白な紙を特殊な液で浸して、そうすると浮かび上がってくる映像。それまで自分の撮った写真がどうなるのかもわからない、その瞬間(とき)になってはじめてどうなったかわかる――だから、写真は奥が深くてのめり込んでしまう。
そんなことをつらつらと話していると、親友は呆れるようにして笑った。
「まったく緑は物好きだよなあ」
「そうかな?」
「そうそう」
肩にまでかかるくらいの水色の髪の毛をした彼女、潮は続ける。
「あたしだったら待ちきれないね、そもそもそれ、撮ってる最中にフィルム確認したらダメなんだったか?」
「今までに撮った写真がムダになるのと、そもそも確認したところでどんなものを撮ったのかはわからず仕舞いかなあ」
「あームリムリ、それならデジカメで充分だな」
「潮に使えるのー?」
「てっめ言ったな〜」
きゃーこわいーとか言ってみて、しょうがないなあって顔をされる。潮はなんだかんだ言っても優しいのだ、それを伝えたら照れて「ばーか」なんて言われるのだけれども。
ちらり、と潮を横目に見る。私の両目がきらきら、きらきらと存在から突き抜けるような輝きを映している。
「なんだ?」
「きらきらしてるなーって」
「わけわかんね」
ははっ、と笑う親友は、写真で写さずとも綺麗だった。
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緑:メガニウム♀
潮さん:オーダイル♀ 窒素
モノクロームと鮮やかな世界でぶれることのない潮さん(緑談)。
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