Un conte de fees 3



「酷い有り様だね、ご苦労様」
「…い、ざや」

わー、靴汚れた!と、血で汚れた自分の靴裏を見て嫌そうな顔をしている。

「俺がもう死んでいると思ってた?残念でした、高みの見物をしていたよ」

相変わらずペラペラ喋る奴だ。
今すぐぶん殴りたい。
だけどもほっとしていた。

「浪江がさ、美香ちゃんだっけ?誠二を殺したから彼女を殺してきたのって言って、
包丁掴んで今度は俺を襲ってきたときはびっくりしたよ!あ、言っておくけど俺は一切絡んでいないからね。
だってナンセンスだよ。薬を使って人間を試すなんて、邪道極まりない。」

NO!ドラッグ!!!、と叫んで踵を返す。

「だけど、死を目前にしたときの人間は、どっしりと来たね。全てが本物だから」
「黙れ…」

どすの効いた声には目も暮れず、臨也は静雄が掴んだ煙草を手に取り、
口に持って行く。
ライターを拾って、火を着ける。

「!…」

ふーーーっ、と深く煙を吸う姿を見て、臨也は笑顔になる。

「生きた心地がする瞬間だね。それを俺から貰った感想は?」
「チッ、最悪だが……最高だ…」

美味い煙草はきっとこれで最後だ。

「皆死んじゃったねぇ」
「お前は逃げねぇのか」
「…色々模索したんだけどねぇ、こればっかりはお手上げだよ。」
「じゃあなんで今更此処に来た」
「…」

先ほどより更に脈がおかしくなってきた。
嫌な予感がする。
俺の状態に臨也は気付いていないのか。
いや、そんな筈はない。

臨也が横たわる俺の隣にしゃがんだ。

「まるで、世界で俺たち2人だけみたいだね」
「気色悪ぃ事言うんじゃねぇよ」
「…一人は生き残れるんだよねー」
「ふん、俺を殺しに来たってわけか。どうせ殺さなくても、俺はもう死ぬだろうぜ。良かったな」
「ゾンビになっちゃうの?」
「…さぁな、…そうかもな」
「首、痛そうだもんね」

少しだけ間が空いた。

「シズちゃん、立って」
「あのな…俺はもう疲れたんだよ」
「良いから」

珍しく念を押すように強く言う臨也に、仕方なく身体を戦慄かせながら身を起こした。
煙草はかなり短くなってしまった。


「おい、良いから、お前逃げろ。無傷だろ」
「どうして?」
「だから、俺はもうすぐ」
「俺の事、殺したかったんじゃなかったの」
「…!」

滅多に見ない険相だった。

「ねぇ、シズちゃん…。見知らぬ男女がさ、世界でもし2人きりになったらね、きっとセックスするんだよ」

臨也はふざけながら胸ポケットから、ナイフを取り出す。

「俺とシズちゃん、たった今、世界で2人きり」
「…てめぇがどうしてもって言うなら抱いてやってもいいぜ?」

冗談には冗談を。
反吐が出る。

「アハハハ!それは傑作だね!…やめてよ、気持ち悪い」


じゃきっ


「俺とシズちゃんは、世界で2人きりになっても喧嘩する、…でしょ?」

赤い瞳がぎらりと光った。

「…くっ、違いねぇな」


この状況に陥ってから決して湧き上がらなかったとある感情が込み上げる。
ゾクゾクする。


拳を振り上げるのと同時に、ナイフが胸を切り裂いた。
臨也の頬にヒットし、勢い良く吹っ飛ぶ。


「だから、俺にナイフはささらな…」


どくどくどく


「…!」


ああ、これは弱ってきている証拠か。
胸元が横一直線にぱっくりと開き、赤い血が滴っていた。
高校時代に初めて切りかかられた時と同じ場所だった。


初めて、切り裂かれるという痛みを感じた。


「いたた…頭がぐらつく…。けど、シズちゃん…全然力入れてないでしょ」


よろよろと起き上がる臨也を見て呆然とする。

いいや、結構本気で殴った筈だ。
今までの統計なら、いつもなら脳震盪で気を失う域だろう。


「シズちゃん…?」
「臨也…俺は、死ぬ、のか?」
「…」


臨也は俺の目の前まで近づいてきた。
恐怖ではなく意志を持たずして震える手を握って、また何を言うつもりか?今酷い事を言われたらそのまま死んでしまいそうな精神状態だった。






「俺も一緒に死んであげるから」







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