Un conte de fees 2
コンクリート板の下で潰れた幽だった塊の隣には、先ほど運んだ3人の学生たちが在った。
俺は確認すべく待っていた。
少し経つと、動かない筈の身体が"人間らしくない"形で動き始めた。
「……これが撒かれた薬の真実かよ」
死んだ幽と同じ、目の色は血走り、涎を垂らしながら、身体を引きずって歯を剥き出しに襲ってきた。
拳の感覚がどんどん鈍くなってくる。
(二度も、殺させないでくれ)
泣いて頭を抱えても現実は変わらない。
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呆然とし、再び街へ出ると、横たわる人間が増えていた。
それを横目に、
「ああ、まだ死にたてか」、と、
…他人事のように思った。
どうでもいいことのように考えないと自分がどうにかなる、いや、もう既に思考は朦朧としていた。
最後の最後で脳内に浮かんだのは、
「臨也」
自分でも驚いた。
何故あいつの名前が思い浮かぶのか。
理由は考えたくもない。
「……お前ならどうする」
あいつは、もう死んだのだろうか?
俺が殺すはずだったのに、既に誰かに殺されたというのだろうか?
あいつの事だ、憎まれる立場にあるから、集団リンチでもされたならさぞかしお似合いだ。
そうだ…殺されたなら、自分の手を汚さずに済んで嬉しいはずなのに、何故だ。
何故、腹が立つんだ。
「臨也…いざ、や…」
皆、皆、死んだ。
俺の知っている人間は皆、死んだ。
顔を見ていないやつ等はどうしただろう。
新羅の事なら、きっとセルティが着いているから大丈夫だろうと思うが、
もう考えるのも疲れた。
だって、周囲には”生きていない物が動いている"ばかりだ。
ああ、幽"だった"物に噛まれた首がじくじくと波打ってきた。
いつもなら怪我なんて直ぐに治るのに。
ハァ… ハァ…
両手で顔を覆うと、サングラスが割れていた。
凄みを利かす為に買った、仕事の相棒のようなものだった。
何度壊したか覚えていないが、これも潮時のようだ。
(今回は良く頑張った方だな。)
返り血で汚れたバーテン服も、幽に貰ったものだから
全て終わったら洗ってまた着直したい。
ド ク・ ・・・ ドクッ
…脈がおかしくなっている。
ふと、違和感を覚え顔を上げると、人が沢山こちらへ寄ってきた。
遠目で見た感じ、"人間らしくない"動きをしていた。
「煙草、あと一本しかねぇな」
膝に手をつきながら立ち上がり、拳を鳴らす。
最後の火を着けようとしたが、ライターが手から滑り落ちていった。
「こいつら片してから、ってか?」
平和島静雄、最後の大暴れの幕開けだった。
------------------1時間後
汚れたアスファルトに大の字に横たわる。
首が痛い。
周囲は無論ぐちゃぐちゃだ。
足も噛まれたし、腕の肉は少し持っていかれた。
こんな化け物たちに勝てるなんて、やっぱり俺の方が化け物だと思う。
皮肉なものだ。
そっと首を横に向けると、先ほど落としたライターがあった。
にっと笑い、胸ポケットから折れ掛けた最後の一本を取り出そうとしたが、上手く指が動かない。
と、真上に人の影が現れた。
ああ、俺もこれで終わりだな。
最後に煙草吸いたかったんだけどな。
そう、目線を向けると。
「シズちゃん」
「!!!!」
いつも通り、変わらない。
うざったくて、ぶん殴りたくて、大嫌いな、
今では眩しいくらいの、あいつが居た。
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