Un conte de fees 4
「…ぁ?」
「そしたら、向こうでまた殺し合いだね!」
アハ!っと満面の笑顔になる臨也。
「何言ってんだ、何の為に今まで生きて…頭おかしくなったんじゃねぇのか?」
「そうかも」
ふふ、と笑った。
何故かその顔を見て、俺の涙腺が破壊され始めた。
同時に、こみ上げるものが出てきたが、
それを邪魔するかのように思考が止まってくる。
臨也は気付いていた。
「まだ、俺の事判る?」
…あ あ、 わ か る 。
ま だ 判 っ て い た い よ 、臨 也 。
「…ハァ…ハァ…い、ざや」
「うん。シズちゃん」
握られたままの手はぶるぶると震えが止まらない。
血が勝手に動き、身体を支配しているかのようだった。
「一人だけ生き残れるって?ふざけてるよね。じゃあ何で薬を撒いたんだって話」
「…?」
「制限時間の三日間はさ、薬が完全に効くまでの時間なんだよ」
「!」
「だから仮に生きていても、出れるのは三日経った後なんでしょ?アハハ!!遊ばれているよね!」
高い塀が組まれた東京全域。
臨也は支配者のように今この時を嘲笑った。
「シズちゃん、次はさ、ここを出て、全てを壊してね。
もうここは池袋じゃない、全く興醒めだよ。
人が楽しんでいるときに邪魔されて…これからどんどん面白くなるところだったのにさ。
…こんな世界、俺は興味ない。」
「…何、デ。こんな、事…に」
「次はもっと広くてさ、想像もつかない場所で…きっとまた会えるよ」
俺の震えている指に、細くてしなやかな指を絡めて臨也は指きりげんまんをした。
「俺とシズちゃんの、最初で最後の約束」
咄嗟に指を握って離せなくなる。
「ィ、ざ…や…俺は、死に、たく、…ない…ッ」
「うん、シズちゃん。…俺も、誰よりも死を恐れてるよ」
俺は、身体の色がどんどん変色していくのを感じた。
何故死を思う瞬間、目の前に居るのがこいつなんだろうと、全てを呪いたい。
なのに…
抱きしめたくて、仕方ないんだ。
ぎゅう…
「!シズちゃん…」
「…臨也、臨也、臨也…!」
こわい…
こわい、こわい、こわい、
怖い…!
「大丈夫、2人一緒なら、怖いのも半分だよ。」
「ハァ…ハァ…」
「なーんて、子供騙しだね。アハハ」
彼の胸元に埋もれた顔を上げると、真っ青な顔が目の前にあった。
シズちゃん、血の気が引いて唇が青くなってきたね。
そんな姿、見たくなかったけど、自分が見られるよりはマシかな。
「そうだな、誓いに、キスを贈るよ」
身体全体が震えてきた彼の冷たい唇に、軽くキスをした。
本当は、赤くて柔らかい唇に約束したかったけど。
ガっ
とうとう死んだのか、噛まれた事によって先にゾンビと化したのか、
彼は飛び下がって、更に勢いをつけて突進してきた。
そう、それは"人間らしく"ない動きで。
すぐさまナイフを構え直し、彼目掛けてこちらも駆けた。
「これで、終わりにしようね、シズちゃん」
最期に、目を細め、柔らかく微笑んだ。
折原臨也にだけしか判らない彼への想いを、この切っ先に込めて。
どんっ!!!!!
深く深く突き刺さったナイフは、彼の額に沈んでいった。
共に倒れる瞬間、伸びた手に肩を掴まれ、引き寄せられる。
ガッ…
臨也は首筋に、死を感じさせる痛みを想った。
「シズ、ちゃん…」
どさっ、
動かなくなった彼の上に倒れる。
首から飛び出す血飛沫が、2人一緒に真っ赤に染めていく。
2人の首輪の生存確認のランプはその瞬間消えていた。
そして、終わりの合図が鳴るかのように、灰色の雨が降り注いだ。
重なるように倒れた2人を洗い流す事は決してない。
…汚い都会の雨だった。
事の始まりから、2日目の夕方であった。
(またね、シズちゃん。)
「ぃ…ざ、ゃ」
----------------------------後日
東京の外から白衣を着た者たちや、警察、特殊部隊が現場を検証し始めていた。
皆顔マスクをしている。
運ばれる全ての"人間だった物"たちは既に互いを貪り合い、事実死んでいた。
何かの研究に使われるのか、真実を知ったところで反発する者はもう此処には生きていない。
潰れて使えないものも沢山あったが、
"なくなっている”ということは決してない筈だった。
―ある、2人の遺体を除いては。
「おい、平和島静雄の遺体はまだ見つからないのか」
「一番の研究対象だぞ、全力で探し出せ!」
「折原臨也らしき遺体も確認取れていません」
「確かに死んだ筈だ、見つかるまで帰れないぞ…!でないと…」
ザァアアアア ・・・ ・・ ・
ザァアアアーーーーーーーーーーーーーー
『 シズちゃん、次はここを出て、世界を壊してね。
次はもっと広くてさ、想像もつかない場所で…きっとまた会えるよ 』
Fin.
2010.7.30
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