彼らを強くするもの




「あ、そうそう。僕、ナマエと結婚したから」
「へー…ん?何?結婚?!あんなに嫌われてたのに?愛せないって俺の前でフラれてたのに?」
「ふふっ、それも僕を愛するが故なんだよ、わかるかい悠仁?」

 わざとらしく左手の薬指をチラつかせていたのはそうゆうことか、全く指輪の存在に気づかなかったけれど。それにしても付き合うなら納得がいくがいきなり結婚まで発展したのはどうしてだろうか。確か二人は出会ってそれほど長くはないはずだった。訝しげに眉を顰めていた虎杖が「あ」と声を漏らす。

「もしかしてデキ婚?」
「ご名答。まあ僕にとっては計画通りなんだけどね」
「……聞きたくなかった」

 不穏な空気が漂い、目の前にいる男を軽視するような視線を虎杖は送ったが悟は壁に寄りかかって喉を鳴らして笑っていた。「だってそう簡単には結婚してくれないよ、彼女まだ若いしね」と淡々と言い放った男に虎杖の喉の奥が凍りつく。

「さいってーだ!」
「ちょっとちょっと、ちゃーんとナマエには避妊しないよって毎回確認してるんだから。あ、悠仁は彼女できたらちゃんと避妊しろよ?嫌われるぞ?」

 悠仁の顔がげんなりしたが、ナマエの姿を頭で思い返してみれば羨ましいという感情が上回る。彼女に近接の訓練をしてもらうようになってから一緒に過ごす時間が格段に増えていた、今の状況では顔を合わせる人間は限られてくるから当然かもしれないが、この隔離された生活の中で彼女は花だった。彼女と話したり体術で触れ合ったりするのが虎杖の気持ちを底上げしてしていた。こんなこと口が滑っても目の前の男には言えない。

「じゃあ補助やめちゃう感じ?今やってる近接訓練も終了?」
「それがさあ、本人がギリギリまで続けるって聞かないんだよ」

 悟は深く息を吐き出して肩を竦めている、その様子から本当に心配しているのが見て取れるが同時にナマエが簡単に言いなりになるような女ではないことも示している。それには虎杖も同じように感じたが、流石に近接で妊娠中の女性を相手にするのは気が引ける。

「でも悠仁と近接やるぐらい朝飯前だって言ってたよ」
「複雑な気持ちだ…」
「やりづらいと思うけど、本気でやらないと泣かされるよ」

 本気でやらないと泣かされるし、万が一傷つけでもしたら確実にこの男に殺される。やり場のない思いをゴクリと飲み込んだ。

「ナマエさんめっちゃ強いけどほんと謎だよね、呪術師ではないって言ってたけど先生は色々知ってるんでしょ?」
「ん?知らないことの方が多いよ」
「嘘だ!絶対嘘!」
「ナマエってすごくめんどくさがりだからさ、話すと長い事はぜんっぜん教えてくれないわけ」
「よく結婚したな…」

 結局は双方適当なんじゃないかと虎杖は瞳を細めたが、悟は一瞥して口元を緩める。

「でも生涯一緒にいたいなって思っちゃったんだよね」

 穏やかで優しく響いた言葉に、この男もこんな言葉を吐けるのだと虎杖は少し驚いた。いつものようにノリや軽はずみな行動ではない、きっと彼らの間ではそれは些細な事に過ぎないのだ。彼女にしつこいほど付き纏ってヘラヘラ笑っている彼はいつだって楽しそうだった。煩わしそうに顔を歪めて彼女は冷たく遇らっているが不意に無防備な笑顔で笑う所を見たことがある。きっとこの男の前でしか見せない穏やかな感情なのだと思えばやはり羨ましい。

「なんかいいね、それ」

 五条悟はこの笑顔を見るために一緒にいるのだと気付けば最強だと呼ばれる男はひどく普通の男に見えたのだ。呪いや絶望で溢れかえる世界で彼らを強くするものはこれだ。身体中の筋肉が解れていくような感覚に虎杖は頬を緩めた。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -