構わないで




「ねえ。さっきから話しかけてるのにひどくない?」
「あれ?私に話しかけてたんですね、すみません」
「白々しいなあ」

 チラッと前のミラーに視線を移せば両手を頭の後ろで組みながら口の端を吊り上げている五条悟の姿に心の中で舌打ちをしてまた視線を戻した。最強だと称しているこの男となるべく関わりたくはなかった。しかし最近この男の補助監督になることが非常に多い。まあ任務は秒でこなしてくれるので主に運転しかしていないがこうやって車内で話しかけられるのが嫌だった。

「ナマエってさあ…僕が任務に行ってる間毎回車内で音楽聞いてるよね」
「え」
「しかも爆音でゴリゴリのヒップホップってイカつすぎるでしょ」

 ――しまった。

 呪霊を祓って任務が終われば彼は律儀にも「おわったー今から帰るね」とメッセージを送ってくる。それに合わせて帰ってきそうな頃には音楽を止めて散らかった車内も片付けていたが、さてはこいつ時間ずらしてやがったな。車の外で喫煙してることもバレているに違いない。

「意外だよね。最初は全然そんな感じに見えなかったよ、綺麗系って感じでさ、あ、口は最初から悪かったけどね。昔は相当やんちゃしてたでしょ?ね、聞いてるの?」

 最近までずっと海外にいたが、あっちでは周りの目など気にならなかった。一人で行動することがほとんどだったから服装も髪型も自由にしていたのだ。しかし日本の補助監督は毎日スーツを着なければならないし、このきっちりかっちりとした感じがストレスで仕方なかった。よって待機中だけは唯一気が抜ける時間だったわけだが、待機中とはいえど任務中。上に報告されたら面倒なことになる。

「まあそれはいいんだよ、面白いしさ」

 ミラー越しの五条悟は相変わらずニヤニヤ笑っているのが無性に腹が立つ。くそ、なんでこいつの補助監督なんてしなきゃいけないんだ。伊地知はどこにいったんだよ。

「僕が聞きたいのはさ、なんで補助監督なんかしてるんだってこと」

 声に深みが滲み出た瞬間、心の中でしていた舌打ちが表に出た。ちょうど任務先である廃病院前で停めれば車を出て、後部座席の扉を開く。長い足を伸ばせず窮屈そうな大男が私を見上げて腕を組んでいるが、一向に車から出ようとはしない。まるで答えるまで動かないとでも言っているようだ。石でも投げつけたい衝動に駆られる。

「めんどくさい事しないでくださいよ、さっさと任務こなしてください。こっちは寝不足なんですよ」
「僕の質問に答えるのが先じゃない?君、呪力全然ないけどさ…違うんだよね明らかに」
「違うって、なにが」
 静かに五条悟を見下ろしていたが、気づけば後ろに立っていた。

「だから、聞いてるのは僕の方だよ」

 痺れるような声が耳朶を打つ。だから関わりたくなかったのだ。この世界で普通に生き抜くためにはこんな力、何の役にも立たないと思ってはいたがこの男をぶん殴ることぐらいはできるだろうか。



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