nearly equal

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相思花の裏 1

白い陶磁のような肌を滑り落ちる赤い花弁を追って、無意識に指が襟元から忍び込んでいた。

「何のつもりだっ…」
「ん。血糊払ってル」
「血糊じゃないって…!」

胸元を覗き込んでみれば珊瑚のような可愛らしい飾りを見つける。
親指と人差し指で軽く摘むと、酒で幾分火照った体の体温が更に上昇した気がした。

体を押さえ込まれながらも、戯れに乗る気はないのだと言いたいのか情人はリンをキツく睨んでくる。


目は口ほどにモノを言うんだよ、エドワード。


苛立った表情を浮かべながらも物足りないと訴えてくる金瞳はもう涙で潤んで、その眼差しを受け止めたリンはエドワードの濡れた桜色の唇に自分の武骨な手のひらを押し当てた。
驚いて目を見開くエドワードの顔を思わずしみじみと見詰めてしまい、綺麗だなぁとうっかり見とれてしまった。

反対の手の人差し指で自分の唇を押さえてみせて、子供を黙らせるように「しーっ」と小さく囁く。

それまで喧しいほど鳴っていた虫の音が聴こえなくなった。まるでこれ以上見ていられない、と逃げ出したように。


遠くで木立が鳴いた。
まるでそれが合図だったように白い喉元に噛み付いたのは、全くの無意識だった――と言ったら、エドワードは信じてくれるだろうか。













自分でも乱暴だと思う程の急性な愛撫を頭の天辺から足の先までくまなく施すと、リンが腰掛けていた座椅子にぐったりと凭れていたエドワードは息も絶え絶えに震えていた。

「寒いし…いた、い」

はぁはぁと艶めかしい息を吐きながらも懲りずに抗議の声をあげるエドワードを無視して服を剥いでしまう。痛がっても嫌がっても、勿論止めてやるつもりなどない。

藤の繊維に擦れた肌が赤くなるのまで、満月の月明かりの下では丸見えだった。薄闇に青く染まる体が扇情的で、一糸も纏わせたくない。そんな気持ちになっている自分がおかしくて、リンは小さく笑った。

「はは…へんなの」
「エドワード?」

エドワードも小さく笑った。顔を隠そうとして持ち上げた腕を退かして顔を覗き込むと、瞳に涙を浮かべながらも勝ち気な眼差しでリンをしっかりと見返してくる金の瞳。

「こんなとこで、こんな、事して」
「俺はいつでもどこでも、エドワード相手なら盛れるヨ?」
「匂いが似てるんだ…だから」
「エドワードさん?」

まだ正気をなくす程は責めていないというのに頬を上気させて虚ろに呟くエドワードの頬を、パチパチと軽く叩いてみる。

「どうしたノ? 酔ったノ?」
「酔ってねぇよ」

言いながらリンの首に腕を絡め、体重をかけてぐいっと引っ張る。
体勢を崩されたリンが上にのしかかってしまうと、エドワードは「ぐえ」と押しつぶされたような声を出した。

「ダイジョウブなの〜? なんか変な感じだよエドワード?」
「うっせぇ…いいんだよ。少し寒いから、ちょうどいい」
「そうなんダ?」
「そうなんだよ」

ふいとそっぽを向いたエドワードの細い顎を掴んで唇を奪うと、リンの舌を抵抗なく口内に受け入れてくれる。
エドワードの稀にみる乗り気で従順な態度に、ちょっかいを出したリンが戸惑ってしまう。

遠慮がちに舌を絡めていると、エドワードの方が焦れて吸い付いてくる。
させたいようにさせていれば益々焦れて、唾液で濡れた音をさせて離れた唇と唇の間を繋ぐように糸を引いた液体が、エドワードの唇を汚して顎までつたっていた。

「早く、」

エドワードの囁き声で、一瞬で体中の血液が沸騰した。

「見られてるの、嫌なんだ」
「俺しか見てないヨ」
「見てる、見られてる…赤いし、匂いが」
「…誰も見てナイ」

荒く息を吐きながら、近くに落ちていた腰紐を手探りで手繰り寄せて、潤んだ瞳を覆い隠してやる。
エドワードの服から剥いだベルトが指に触れたのでついでにそれを腕に巻き付け、後ろ手に縛り上げた。

少々辛い体勢にエドワードが小さく悲鳴を吐いたが、それは無視。

「これでイイ?」

エドワードは何も言わなかった。

「俺以外の視線なんて気にしちゃ駄目ダ。エドワードを見た奴の両目を抉り出さなきゃならなくなル」
「ひっ……!」

我慢仕切れず力任せに捻り込んだせいで、エドワードの下肢の肉がぴり、と裂けた。悲鳴をあげ硬直する体をしっかり抱え込んで、それでも尚ぐいぐいと侵入する己の熱が、それより高い温度でズクンズクンと脈打つ肉壁に包まれる。

血が流れ落ちても青白い月明かりの下では黒い水のように見える筈なのに、リンに絡みついて締めつけてくる部分から滴る血液は鮮やかに紅くエドワードの臀部を伝った。
胸元に散ったままの血糊の花弁が肌を滑り落ちて、エドワードが摘んできた彼岸花の花弁も千切って上からひらひらと散らせる。


目が眩む。


「も…や…」

自然に馴染んでぐずぐずに溶けた恥部を晒して、これ以上ないほど淫靡な風情で強請る。
ひくりひくりと蠢く蕾は桜色に染まり、その奥は紅く濡れて、貫く熱が更に熱い飛沫を上げるのを待ち焦がれているに違いない。

「ホントどうしちゃったんだヨ、エドワードさん」

何時になく積極的な態度に、リンの脳裏に発情期と云う言葉が浮かんだ。

腰を艶かしく揺らめかせ、内壁はイヤらしく収縮させて。
何より自分から積極的に動くなんて普段の彼らしくない。どちらかと言えばエドワードはマグロだから。

まさか酒に媚薬でもと勘ぐったが、一緒に盃を酌み交わしていたリンの体には特別おかしな所はない。エドワードにだけ効く媚薬?そんな都合のいい物があったら即量産してやる。

「駄目だ、駄目、リンっ…!」
「何が。欲しい欲しいって尻振ってねだってんのはエドワードだヨ」

一緒にイこうか。そう言えばエドワードはしゃくりあげながら首を振る。
「やだ、ぃや、…っあ…!」
「イくよ、一番奥に……ホラ」
「ひぁ、ああぁ……!」

リンが吐き出す精がエドワードの体内を満たすと、何もせずともエドワードは達してしまう。
ドクドクと脈打つ淫茎が、微妙にずれた脈を打つ肉ににすっぽりと包まれている。

暖かい。エドワードの肉の熱さ、エドワードの血の暖かさ。
包まれているうちに一瞬だけふたつの脈がピタリと重なり、直ぐにお互い別々の拍子を刻み出した。










「血溜まりで、抱かれてるみたいだ」

幾分落ち着いてきた呼吸でエドワードが呟いた。
覆い隠した瞳から溢れた涙が腰紐を濡らしている。しゃくりあげて小さく震える姿が不憫だったが、それもまた欲を誘った。

宥めるように唇を舐める。エドワードの唇を味わうと先程まで飲み交わしていた酒の香りと、彼岸花の花粉が付いたのか、百合の香りがした。

下肢はまだ繋いだまま、エドワードの目隠しも解かないまま、リンは手が届く限りの彼岸花を毟り取り、一枚一枚花弁をエドワードの胸に散らしていく。

青白い肌に赤い花弁が散る。
扇情的な光景だった。エドワードには血が似合う。動脈血のような鮮血の赤が。

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