nearly equal

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【OSAL】8


『そんなに懐かしくもないだろ…同じ顔…っていうか本物には、毎日会ってんだから』

からかわれ過ぎて怒ったのか、不貞腐れ顔でアルが頬を膨らませる。
本物と言われたので、エドワードは首を傾げた。アルがアルフォンス・エルリックの事を言っているのは分かったが、何故毎日会っているなんて話になるのだろう。

「確かによく遊ぶけど、毎日はさすがに無理、課題が間に合わん」
『…じゃなくて!告白されてないのかよ!』
「告白?なんの?」
『…好きだって言われたでしょ!?』
「………」

何故知っている。エドワードが目を泳がせると、アルは何かまたショックを受けたようにモニターの隅に走って逃げた。

「あ、おい待てアル」
『待つか―――!どうせエドなんか、同じイケメンだったらデータだけの僕より金も体力も精力もある方のがいいとか思ってるに違いないんだ…!バーカ!』
「バーカってお前」

モニターの隅っこで、子犬のようにきゃんきゃん吠えてエドワードを詰る。アルってこんな性格だっただろうか…首を捻るエドワードの背後から、苦笑顔の青年がモニターを覗き込んできたのに気付くのが遅れたアルは、その場でフリーズした。

「残念ながら、『金も体力も精力もないデータのがいい』って振られました…わあ、本当に僕と同じ顔だ」

アルは本来なら感じる筈の無い、全身から冷や汗が滲み出る感覚に襲われた。
モニターの前、エドワードの隣にやって来てこちらを見ているのは、見紛う事もなく創造主、その人本人だったのだから。

『え、エド…』

フリーズしたまま、恐る恐るどうにか口だけ開いて助けを求めると、エドワードはあっけらかんとして笑っていた。

「あ、全部話したから大丈夫だよ。それに振ったっつーか、まあオトモダチ!な!」
「はいはい」

アルがコソコソと逃げ回っている間にふたりには何かしら進展があって、一応の決着がついていたらしい。…展開に全くついていけないが。

「でも、まだ諦めた訳じゃないから、ね…じゃあエド、また後で」

通りかかっただけだったのか、言いたいことだけ言って創造主は去っていった。去り際に、おそらくエドワードには見せた事もないだろう冷たい視線でアルに一瞥をくれていくあたり、創造主の底意地…というか性格の悪さが伺えた。まあ、性格がよろしくなさそうなのは最初から知っていたけれど。

手を振ってアルフォンスを見送ったエドワードは、またアルに向き直った。

「つう訳だよ、男前」
『…意味が、わかりません…』

それまでの笑顔から一転、キツい目付きで凄んでくるエドワードの迫力に押されながら、本当に理解できないアルは身を竦ませた。

「わかんねえ?お前の優秀な演算能力でもわかんねえ?普段オレを散々デリカシーがないだの鈍いだの馬鹿にしてるOSのくせに、わかんねえ?」
『ちょ…ちょっと待って…』

一発触発でキレそうな勢いのエドワードを抑えながら、先程のやり取りを反芻する。
自分が逃げ回っているうちに、創造主はやっぱりエドに告白していた。当たり前だ、あんなに好きだったんだから――他人にも、もしかしたら自分自身にも無関心だった創造主が唯一執着した固有名詞。エドの名前。今なら――いや、エドに出会った瞬間にすぐに理解した。創造主はエドに恋をしたんだって――一度は諦めたのかエドの名前を見る事はなくなってしまったけど、僕がエドに出会って、創造主の恋を理解した、その時には僕だってエドに恋していた。体を持たないデータだけの存在の僕までがエドを好きになった。そんな相手を、諦めきれる訳がない。
でも、創造主は振られたらしい。オトモダチだって。『金も体力も精力もないデータのがいい』からって…… … …





『……ぇぇえええぅぇぁ!?』
「わかったか、男前」

白い歯を見せて、にかっと笑ったエドワードの男らしさといったら、なかった。

『信じられない……今日はお祭りなの?僕を騙すと幸せが訪れるジンクスでも出来たの?それともエイプリルフール…?』
「んなわけあるか」

まさかのハッピーエンドに呆然とするアルを笑い、エドワードはまたキーボードを叩き始めた。…どうやら作業の続きを始めるらしい。

『…エド…』

なにも、直ぐに現実に戻らなくてもいいじゃないか。ふたりの想いが通じた途端に課題の続きなんて、第一、まだお互いの気持ちをちゃんと伝え合ってすらいないのに……。
相変わらずムードのないエドワードを詰るような気持ちで見上げると、エドワードはいつも通り――どころかいつもより格段に鬱陶しそうな顔をしてアルを見下ろし、吐き捨てるように言った。

「おら、ちゃっちゃと言われたデータ出せよアル!この課題が終わったら、教授から出来高で引き受けたデータ処理のバイトがワンサカ入ってんだ…!全く手間かけさせやがって、今まで逃げ回ってオレに苦労かけたツケ、たっぷり払ってもらうからな…!」
『…………』

――エドは、たぶんわかってない。いや間違いなく全然わかってない。
甘い雰囲気の欠片もないエドワードに、アルは恐る恐る訊ねる。

『あ、あの…僕がいなくて、寂しかったんだよね…?』
「あ!? 不便で仕方なかったっつうの!」
『…創造主は手伝ってくれなかったの…?』
「いくら頭のデキが良くても、機械科のアルフォンスには無理だろ!金も絡むし頼めるか!」
『………』

アルの中で何かが音を立てて崩れていく。
これではまるで――いや、だぶん絶対、「どっちが役に立つか」で選ばれたな――創造主の告白も、たぶんちゃんと理解してない。この人は、恋愛のなんたるかさえ理解していないんだ。

創造主、可哀想…と、アルは肩を落とした。それでも、そんなお子様で自分勝手なエドワードでも嫌いにならない自分も可哀想…とは思っても、どうしても緩んでしまう顔は、自分の中に本当に存在するのかも怪しい心が訴える「好き」という気持ちと同じで、自分でもどうする事も出来なかった。


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