nearly equal

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【OSAL】7


新年度になっても、エドワードは相変わらず課題に追われていた。
エドワードの在籍する薬学科は六年制なのでまだ先だが、他の学科の同級生は早くも就活の準備に入ったものもいる。構内で見かけるようになったスーツ姿の学生を横目に、エドワードは学内の共有PCスペースでひたすらタイピングに勤しむ。これでも以前よりは格段に早くなったタイピングだが、一年下の友人の華麗なキーボード捌きと比べたらウサギと亀くらいの差がある。いやいや、アイツの指はきっと調合金なんだ、人間じゃないから、と他愛の無い事を考えながら、来週提出予定の課題のテキストを締めくくった。後はデータをプリントして添付すれば終了。

「…酢酸のスペクトルデータ、どこだっけ…?」

一息つき、何気ない様子を装って呟く。三秒後、ウィンドウを少し横に動かせば、後ろにそれまで無かったスペクトルデータのショートカットが現れていた。エドワードの鼻から盛大に息が抜けた。 お手伝いの妖精さんは、これで隠れているつもりなのだろうか。最近仕事が少し雑になってきた気がする。

「……おーい、もういい加減出て来いよ」

声が笑ってしまわないように気を張るのが精一杯で、顔が笑ってしまうのは止めようもなかった。

……あれから、アルはエドワードのPCのモニターに現れなくなってしまった。エドワードがいくら呼んでも姿どころか返答も無しで、消えてしまったものをPCの中から探すだけの知識も技術も無いエドワードは、持ち主のいなくなったアルハウスを何とも言えない気持ちで眺める失意の日々を送っていた――のだが、すぐにおかしな事に気が付いた。データが勝手に整理されていたのだ。
エドワードがPCに突っ込んでいるデータは、授業や課題で計測した化合物の測定データが殆どだ。それらのデータはサイズがデカくてとにかく場所を取る。以前はそれを、アルが圧縮してスペル別、分類別…と、後で引っ張り出しやすいように整理してくれていた。しかし、アルが作ったデータベースを引き継いだエドワードにはそれを維持するだけのマメさはなかったので、アルが出て来なくなってからはアルが来る前と同じように突っ込みっぱなしで、データ整理なんて全くしていなかった。
それが、ある日見たら綺麗に整理整頓されているではないか。

…妖精さんのしわざだ、とエドワードはほくそ笑んだ。

それからも妖精さんはちょくちょくエドワードの世話を焼きに現れた。姿は相変わらず見ないが、エドワードが適当にすればするほど妖精さんは気になって仕方ないようで、その世話の焼き方は最早、真夜中の妖精さんと言うよりも息子の部屋の散らかり具合に切れて勝手に掃除を始める母親のようだ。
そんな母親は、今ではエドワードが欲しい物をボソリと呟けば『あーもーこれね!ここにあるから!だから自分で何処に何があるか分かるようにちゃんと片しときなさいっていっつも言ってるでしょ!』と(言いはしないが)必要なデータを出してくれるまでになっていた。

自分から消えた手前、意地を張っているのかそれとも恥ずかしくて出て来れないのか――妖精・アルフォンスはエドワードが呼び掛けても姿を見せない。ひょっとして身体データを消してしまったのかとも考えたが、先日アルハウスの浴槽を使用した形跡があったので、身体データも健在なのは確認済みだ。




「…アル、会いたいよ…」

笑いを堪えながら、トドメの一言を呟いてやった。

たっぷり待った10分後、久しぶりに見る男前がウィンドウの裏からそっと顔を覗かせた。

『ひどいよ、僕にこんな思いさせといて、エドは笑ってるんだ…僕の純情を弄ぶな!』

目をうるうる潤ませたアルが、ウィンドウから顔を半分だけ出して憎らしげにエドワードを見上げる。エドワードは笑いながらアルの隠れていたウィンドウを閉じてやった。隠れ場所を消されて丸見えになった妖精は、居た堪れないのか恥ずかしそうにもじもじしている。男前が台無しだ。

「久しぶり。元気だった?」
『…あー…うん、元気…。エドも、…?』
「オレは寂しかった。誰かさんと何ヶ月も会わなかったせいで…っぷくく」
『……エドォォォ…!』

赤くなったり泣いたり怒ったりと忙しい妖精をからかいながら、エドワードは目尻に溜まった涙を拭った。――会いたかったのは本当、寂しかったのも、たぶん、本当。でもそんな事はもうどうでもいいくらい、久しぶりに見たアルの顔が懐かしくて、嬉しかった。


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