【OSAL】6 「…わかんねえ…オレ、本当にわかんねえんだよ…」 『…うん…僕も、解んないんだよねぇ…』 どれくらい黙り込んでいただろう。長い沈黙をエドワードが重々しい声で破ると、アルもまた乾いた声を上げた。 「…PCは、壊れちまったらまた買えばいいし」 『…うん』 「データはお前がバックアップ取ってくれてるから、問題ねーし…」 『うん』 ぽつぽつと言葉を続けるエドワードに、アルは静かに相槌を打って先を促す。エドワードは先程から項垂れっぱなしで、モニターに映るアルの姿を見る事も出来なくなっていた。 そうなのだ。安いPCなんていくらでも見つかる。データだって、もし吹き飛んでもまた打ち込めばいい。それなのに何がこんなに怖いのか。それほど考えなくても、エドワードにはもう解ってしまっていた。エドワードのPCにもデータにも代えられない物はひとつしかないのだから―― 段々と熱くなってくる頬と目頭に力を込めて堪えつつ、エドワードは声を絞り出した。 「お前がいなくなっちまうのは、嫌だ」 『ありがとう、エド――僕はもう充分、しあわせだ』 笑うとも嘆くともつかない声で、アルがそう呟いた。驚いてエドワードが顔を上げると、これ以上ないくらい優しい顔で笑っているアルフォンスが、一瞬だけ――そして、すぐにモニターから消えた。 「……アル…?」 エドワードが目を瞬かせているうちに、モニターの電源が落ちる。 「アル!」 慌てたエドワードは思わずPCを抱え上げたが、フェードアウトして真っ暗になったモニターにはもうアルの姿はどこにもなくて、そこに映るのはエドワードの情けない顔だけだった。 どうしていいかも分からずPCを見つめていると、電源の落ちたPCから起動音が上がる。立ち上がりの短い時間が、いつもの何倍も長く感じられた。じりじりしながらモニターを見つめ、ようやく起動したPCのウィンドウ――そこに映ったのは、随分久し振りに目にする窓のイラストだった。 ――それきり、アルがエドワードのPCに現れる事は、なくなってしまった。 ←text top |