nearly equal

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【OSAL】2


エドワードがPCの電源を入れたのは、その日の終わりに近い時間になってからだった。

いつものように立ち上がってすぐモニターに顔を出したアルフォンスは、PCの前にエドワードの姿を探した――が、居なかった。
アルは溜め息を吐いた。
PCを立ち上げた、という事は、何かまとめたい資料やレポートがあるのだろう。エドワードは学習関係以外では殆どPCを使わない。来週の頭に提出する予定のレポートが三件ある。しかしエドワードはいつも先行提出なので、実際の締め切りまでにはだいぶ余裕がある筈。

エドワードの様子がおかしい事には、もうとっくに気付いていた。

エドワードは今日、友人と食事に行くと言って夕方に出掛けた。その時から多少――だいぶ様子がおかしかったのだけれど。そのうち、キッチンからエドワードがフラリと姿を現した。手には缶ビールが二本握られている――下戸のクセに。まだ様子はおかしいままのようだ。

『お帰り、エド』

いつものように挨拶をするが、エドワードからの返事はない。様子ばかりではなく機嫌も悪いのだろうか。アルフォンスが首を竦めると、エドワードはPCの置かれた卓袱台の前にドカッと座り込み、徐にビールを開けて中身を煽った。下戸のクセに、大丈夫なのか。アルフォンスの心配通り、二、三口飲んだだけで目の据わったエドワードが出来上がった。

エドワードはそのまま更にビールを煽り続け、アルフォンスは黙ってそれを見ていた。
今日、出掛けて行く時からエドワードの様子はおかしかった。しかしそれ以前からも、今日程ではないにしろ様子はおかしかった。――思い当たる理由が、ひとつだけある。



「――今日、」

独り言のように、エドワードが口を開いた。

「友達と、飯食って来たんだけど」
『うん』

それはもう聞いた。とは口にせず、アルフォンスはエドワードが先を続けるのを待つ。

目の据わったエドワードはもう一口ビールを煽り、げふ、と腹から炭酸を吐き出してから、それまで合わせようとしなかった視線をアルフォンスに向けてきた。――目が据わっているから、色っぽい視線とはお世辞にも言えない。どちらかと言えばチンピラにメンチを切られているような気分だ。

「そいつ、な、――アルフォンス・エルリックっていうヤツ、なんだけど」
『――うん』

知ってるよ――とも、言わないけど。



先日、エドワードが作ってくれたアルフォンスの家のプログラムに彼の署名があるのを見つけて――その場ですぐ、その話が出ると思っていたのに、エドワードは何も言わなかった。でもそれは寛容ではなくて、単にその時エドワードは課題で忙しかったから放って置かれているだけ、というのもちゃんとわかっていた。なにしろアルフォンスは、――OSのアルフォンスは、実在する人間のアルフォンス・エルリックの身体データを丸々コピーして存在しているのだから、いくら大抵の事に無頓着なエドワードと言えども、二人を全くの無関係だとは思わないだろう。
それでも、初めてエドワードと顔を合わせた時、エドワードはアルフォンス・エルリックという人間の存在を知らなかった筈だ。突然PCに現れた男が動いたり話たりするのに純粋に驚いているだけだった。エドワードとアルフォンス・エルリックはいつ接触したのか――そう考えるのも無意味だろう。元々何の接点もなければ、自由に移動できる手足のないアルフォンスがこうしてエドワードの元にやって来る事などなかったのだ。友達の友達の友達…みたいな薄い物でも、何かしら繋がりがあったからこそ、アルフォンスは今こうしてエドワードのPCに収まっている。その繋がりさえ途切れなければ、いつかはその名前をエドワードの口から聞く事も、と覚悟はしていた――ついにその時が来た、それだけの事。

「お前、いったい、何なの……?」

エドワードは何故か、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

プロセス管理やメモリ管理を割り当てられた仮想システム――と、機械に疎いエドワードには呪文のように聞こえる文句を言ったら本当に泣き出すだろうか。アルフォンスはそんな、意地の悪い事を考えた。


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