nearly equal

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newmain1/2memo


【OSAL】1


「――上の空だね」
「え――っあ、うわわっ」

聞き慣れた、でもいつも聞いているそれとは微妙にトーンの違う男の声ではっと我に返ると、それまで意識の外に追い出していた周囲の騒音も耳に飛び込んでくる。

周りのテーブルから聞こえる賑やかな話声や、従業員を呼ぶ客の声、それに対応する従業員の声。そして肉の焼ける香ばしい匂いと油が火に落ちて弾ける音。そうだ此処は焼肉屋だった、と思い出すまでにしばらくかかった。

箸をくわえてボンヤリとしていたエドワードは網の上で焼かれっぱなしになっていた肉に慌てて箸をのばしたが、どれくらい放置してしまったのか、好物のカルビの硬く縮み、下片面は黒く炭化してしまっている。

「頼み直す?」
「あ…悪い、大丈夫」

アルフォンスがメニューを取るのを断り、エドワードは苦笑しながら焦げ肉を網の端に寄せた。


今日は先日のアルフォンスの――エドワードのPCの中のアルフォンスに部屋を作ってやった際のプログラムを教えてもらった礼にと、人間のアルフォンスと食事に来ていた。御礼なので勿論エドワードの奢りだったが、エドワードの懐具合はいつも極寒なので、それなりに旨くて満腹感があり尚且つ激安な食事をと、仲間内でよく行く焼肉店にアルフォンスを誘ったのだ。

アルフォンスはエドワードが行くような大衆的な焼肉店に来たのは初めてだという。まさかと思ってアルフォンスが普段行く店の店名を尋ねたら、案の定高級焼肉店の名前を出されてエドワードは面食らった。生まれも育ちも良さそうだと薄々思っていたけれど、まさか焼肉で育ちの違いを見せつけられるとは思わなかった。
エドワード御用達の焼肉店の肉ではアルフォンスの舌に合わないかと思ったが、当の本人は何を食べても顔を綻ばせて「美味しい」と笑い、半ば興奮気味にあれこれと追加注文していった。子供のようなその様子に思わず苦笑すると、気付いたアルフォンスは照れたような顔をする。

「あ、勝手に色々頼んじゃってごめんね。余計に頼んだ分は自分で払うから」
「いいよ、つうかバイキングだから、時間内はどんだけ食っても料金一緒!たらふく食ってくれ!」
「そんな便利なシステムなんだ…活気があって賑やかだし、お肉も他の料理も美味しいし、いい店だね」
「おぉ、気に入ったんならまた来ようぜ!」
「……うん」

にこりと笑うと、益々子供のように無邪気な顔になる。
アルフォンスとはあれから何度か顔を合わせて言葉を交わしたが、初めて会った時の硬い表情は幾分和らいでいた。

ぱっと見、温和で人当たりの良さそうなアルフォンスの表情に、最初こそ違和感を感じていたエドワードだった。しかしそれも、今考えると面識の無いエドワードに対して単に人見知りをしていただけかもしれないが、同じ顔で同じように笑う人物――正確には「人」ではないけれど、じゃあ何て呼べばいいんだよ、OS?確かに本人も『OSみたいなもの』と言っていたけど、PCのプログラムのクセに妙に人間臭いところばかりのアイツには、何かそれもしっくりこない――と、頭を悩ませてしまう「人物」を知っているせいで、どうしてもその彼と比べてしまうのだ。

そもそも今日、アルフォンスと食事に行く事をアルフォンスに――どっちも同じ名前だからややこしい。人間のアルフォンスとは言っていないけれど、今夜は友人と食事に行くのだとOSのアルに言ったら、何だか変な顔をしていたっけ。

――友達とどこに行くにも、わざわざ僕に断った事なんて、今までなかったじゃない。

PCのモニターに映った顰めっ面のアルにそう言われたエドワードは、それ以上は何も言わずにPCの電源を落とした。
確かに、何処に誰と出掛けるにもアルにいちいち報告したりしない。それなのに今日に限って、まるで言い訳でもするように自ら自己申告してしまった。しかもそれを指摘されて、動揺してしまった――やましい気持ちがあったからだ。エドワードには、アルに秘密にしている事が他にもあった。




「――また、ぼーっとしてる」

考え込んで呆けていたエドワードは、間近から聞こえてきたアルの声に飛び上がって驚く。
慌てて顔を上げるとテーブルの向かいには人間のアルフォンスが居て、眉を顰めて此方を見ていた。普段のアルフォンスは抑揚を抑えたように淡々と喋る印象で、OSのアルと同じ声でも微妙に喋り方が違うように感じるけれど――なんだか拗ねたような声を出す時は同じ喋り方なんだ、と変なところに感心した。

「悪い、考え事してた――で、なんだっけ?」

エドワードが謝ると、アルフォンスは顰めっ面を引っ込めていつものポーカーフェイスになった――が、拗ねた子供のような口調は変わらなかった。

「訊きたい事があるって、言ってたと思うけど」
「あ―…うん、そうだ。あのさ…」

プログラミングを教えて貰った御礼、というのは勿論だが、アルフォンスにはプログラミングの他にも教えてもらいたい事があった。

エドワードのPCに住み着いた妖精――ではなくオペレーティングシステム、と自己申告するアル。容姿も声もアルフォンスとそっくり同じ、アルの方が喜怒哀楽がはっきりしている分、性格とシルバーフレームの眼鏡の有る無し、そして現実世界に実在しているか否か――くらいしか、今のところ違いが見付からない。
そもそもアルがエドワードのPCに現れたのは、友人から譲ってもらったメモリをPCに入れてからだ。そのメモリも元々はアルフォンスの物だったと聞いている。アルフォンスは自作OSも作っているくらいプログラミングに精通しているとの友人情報もある。そうなれば、OSのアルはアルフォンスが作成したオペレーティングシステムと考えるのが普通だろう。

――そんな事、直接僕に聞けばいいのに。なんでソイツなの?

家に置いてきたPCから、そんな拗ね声が聞こえた気がした。

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