nearly equal

(http://nanos.jp/nearlyequa1/)

newmain1/2memo


【ボクノ ナマエハ あるふぉんす デス】2


友人の言葉に飛びついたエドワードだったが、メモリ増設どころかメモリとは何ぞや、の状態だった。

「増設したらフリーズしなくなる?」
「んー…フリーズの原因にも因るけど、作業自体は早くなるし、多少は良くなると思うぜ?」

図書室の一角で、小さなドライバーで次々と螺子を外されていくPCをエドワードは興味津々で覗き込んだ。

「他のヤツに、メモリ増設したらマシになるって言われたんだけどさー。メモリってそもそも何なわけ」
「…メモリはメモリ、で覚えてきたからな…説明しようと思っても言葉がみつかんねえな…。なんつーか、PCん中の記憶装置?みたいな感じ?」
「CDと同じ?」
「…記憶装置としては同じは同じなんだろーけど…うまく説明できねー」

機械科のヤツに聞いてくれ、と顔を顰める友人の手元では、底板が外されてPCの中身が丸見えになった。無数のコードが張り巡らされた内部を想像していたエドワードは、意外にすっきりとしたPCの内部に少し落胆してしまった。
電気屋に頼むと金がかかると聞いたので、メモリを譲ってくれた友人に無理を承知で増設まで頼んだのだが、友人のハボックは学食の食券二枚で快く引き受けてくれた。メモリの増設くらいなら、特にPCの専門知識がなくてもできる物らしい。ハボックが持ってきた『メモリ』という物を手に取り、エドワードは初めて見るその薄い板のような物体を観察した。

「金色のとこはあんま触んなよ。ほれ、貸してみ」
「あ、わるい」

触るなと言われて怖気づいたエドワードが恐る恐るハボックにメモリを寄越すと「そこまで精密部品じゃねーよ」と笑われる。

「これ、これがマザーボード。このメモリはここに付けるヤツなんだよ。」

ハボックが指し示す先には同じ形状の板が一枚、既に有った。マザーボートと呼ばれた部分に溝があって、どうやらメモリはそこに差し込むらしい。ハボックは持ってきたメモリを空いていた溝に押し込み、底板をはめて外した螺子を元通りに締め直した。

「よし、これで終わりっ」
「え、これで?設定とかないの?」
「あっと、どうだったかな…」

あまりに簡単に終わってしまったので不安になったエドワードが訊ねると、ハボックは携帯電話を取り出した。

「だいじょぶだと思うけど、一応聞いてみるわ。機械科で詳しいヤツがいるからさ。……なんだよ、ここ圏外か…ちょっと待ってろ?」

ハボックは電話をしに行くと言い残し、図書室を出て行ってしまった。

薬学科のエドワード達は本日休講だが、午前の講義時間中の大学の図書室にはエドワードの他に人の姿はない。いつもなら書架の間に見かける司書の姿もなく、エドワードは静まり返った図書館内でひとり、新たなメモリを増設したPCを黙って見つめていた。

これでフリーズによるレポートの喪失という絶望の日々から開放されるのだ。あんな薄い板一枚であるが、あのメモリのおかげでこれからのエドワードのPCライフが安全で快適なものになるのだ――書いては消え、書いては消えたあの悪夢のような日々から逃れられる。
なんだか無性に嬉しくなって、エドワードは新生(別に生まれ変わった訳でもないが)PCを開いた。キスのひとつでもしてやりたいような気分で開いたPCのモニターには、ニヤケきったエドワードの顔が映っている。

 ――ぅいいいぃぃぃん………

その時、突然PCからモーター音が聞こえた。電源を触ってしまったのかとエドワードは慌ててPCから手を離したが、PCを開いただけなのだから電源には触れていない筈だった。
何が起きたのかと慌てるエドワードの前で、モニターが通電してライトが点く。聞こえたモーター音はやはり、PCの起動音だったようだった。電源には触れていないと思ったのに、やはり触ってしまっていたのか――それより、起動してしまって大丈夫だったのだろうか?――メモリという未知の付属品を増設したPCもまた、エドワードにとってメモリと同様に未知の機器だった。
まさか不具合かとも思ったが、何しろエドワードは素人なので自己判断でPCの電源を落とす事もできず、肝を冷やしながらただPCを見守るしかなかった。せめて、見慣れた窓のイラストがモニターに現れてくれれば少しは安心できたかもしれなかったが、モニターは通電して光っているが真っ黒で、世界共通の窓は一向に現れない。
時間にしたら二、三分程の現象だっただろうか。不安が募り、エドワードが胃に微かに痛みを感じ始めた頃、PCのモニターにアルファベットが表示された。

昔、高校の時に授業で少しかじったDOS/Vに似た感じのアルファベットの羅列が見て取れて、エドワードはほっと息を吐く。
試したことはないが、エドワードのPCも起動時にDOS/Vで起動させる事ができるのを知っていた。どうやら不具合や故障の類ではなさそうだ。そう思って胸を撫で下ろした途端、何の前触れもなく唐突に現れたアルファベットの羅列が猛烈な速さでモニターを埋め尽くしたので、エドワードはまた驚かされる。
目で追い切れない勢いで流れていくアルファベットに、エドワードの心臓はショックで止まりそうだった。このままハボックが戻って来なかったら本当に息絶えてしまうんじゃないかと思うほど、動悸息切れが激しくなった頃――流れ溢れていたアルファベットの洪水が、ぴたりと止んだ。

恐る恐るモニターに目をやると、しばらくの改行の後、ゆっくりとアルファベットが現れた。
人がタイプしているくらいの速度で、今度ははっきりとした文体で表示されていくアルファベットを目で追う。





 ―― My name is ALPHONSE.
 ―― What you’re name ?










「……………………………………あ?」

エドワードの頭の中に?が踊った。
突然、PCが「僕の名前はアルフォンスです」と名乗った。その上こちらの名前も訊ねている。

たっぷり10分は悩んで、エドワードは< E D W A R D . >とキーを打ってみた。
エンターを押すのは結構な勇気が要ったが、おっかなびっくり押してみても特に何も起こらなかったので、幾らか呆けながらモニターでカーソルが点滅しているのをじっと見つめる。

「………………………………………」

未知なる機器の未知なる現象を目の当たりにした頭は真っ白だったが、更なる問い掛けがくるかもしれない。そう思ってモニターを食い入るように見つめていたのに、エドワードの思惑を裏切ってPCの電源が勝手に落ちた。

「――ぅおい!なんだよ!」

意気込んでいたところに肩透かしを食らって、エドワードは怒声を上げながら机に拳を叩きつけてしまった。何だかPCにからかわれている気がする。しかし、電源が落ちたと思ったPCからすぐにモーター音が上がってエドワードはぎょっとした。

また、あのアルファベットの羅列がくるのか――そう思って身構えたエドワードをあざ笑うように、通電したモニターは今度は真っ黒ではなく、白い背景を映した。
そして、そこには――――


『 はじめまして、エドワード 』


見慣れたOSのトレードマークの窓ではなく、CGとも思えないほど滑らかな画像の男がひとり、にこやかな笑顔で映し出されて、尚且つ音声を伴ってエドワードに話しかけてきた。


prev next

←text top































人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -