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【ボクノ ナマエハ あるふぉんす デス】3


『今日はあのまま帰っちまったんだろ?バイトか何かあった?』
「あ…うん、まあ……悪かったな、礼もなんも言わないで勝手に帰っちまって…」
『いや、いいよ。それからな、メモリはそのままで大丈夫だってさ』
「あ…うん……」

その日の夜半、エドワードの携帯にハボックから連絡が入った。無言で逃げるように帰ってしまった事をハボックは怒ってはいない様子だった。

『フリーズしてないだろ?普通に動いてる?』
「………」

フリーズはしていない。図書館を出る時に一度電源を切ったが、家に戻ってからもちゃんと起動した。一部を除き、動作にも異常がなかった。PCに保存していたデータも粗方確認したが、特に問題はなかった。


『電話、エドの友達から?』


しかし、いつもは起動するとモニターに現れるOSのシンボル窓は今度も現れる事はなく、代わりにお世辞にも「普通」とは言えない画像が、依然として映し出されている、が。

14インチのモニターの中では、垂れがちな大きな瞳を子犬のように輝かせた青年が、歯噛みしたくなるくらい整った容貌で柔らかく微笑んで、エドワードに音声で訊ねてきている、が。

『あ?誰か来てんの?』
「だっ誰も来てねえよオレひとりだけどっ!?」
『そう?声、聞こえたけど』
「きっ気のせいじゃねえ!?」

最近は何かと用件がたて込んでいて疲れ気味だったので、実は幻覚幻聴も疑っていた。この音声がハボックにも聞こえているならこの声はエドワードの幻聴ではないのだろう。幾らかほっとしたが、幻覚の類でないとしたら魑魅魍魎の…いや、パソコンに? エドワードは益々混乱する。

何かあったらまた言ってくれ、とハボックからの電話は切れ、エドワードは溜め息を吐きながら携帯を放り出した。

「………」
『エド?』

モニターをじっと見ていると、画面の青年は笑みを崩さないまま首を傾げてみせた。

これもデスクトップ…というモノなのだろうか。
エドワードはPCのデスクトップを買った時のままで弄っていないが、友人達はネットでダウンロードしたり自分で加工した画像をデスクトップに設定していた。エドワードのデスクトップは風景の静止画だが、動いたり喋ったりするような凝った物もあると聞いた事がある。動いたり喋ったりしているし、コレもそのデスクトップと考えていいのだろうか。でもこんなに流暢に喋ったり、使用者と対話できるデスクトップなんてあるのだろうか。眉を顰めてモニターを凝視していると、デスクトップの青年はエドワードが起きているのか確認するように手を振ってみせた。

『エド?エードー?聞こえてる?エドー?』

…いつの間にか愛称で呼ばれている。勝手に。

自宅に戻り、PCを起動させてからずっと、デスクトップの青年は終始こんな調子だった。
あんまり普通に話し掛けてくるので、最初はスカイプが起動しているのかと思った。しかし様子がおかしい。スカイプは起動していないし、そもそもエドワードのPCはスカイプに登録していないし、メッセンジャーの類は利用した事がない。モニターの中の青年に訊ねても、やはりメッセンジャーで話しているのではないという。
じゃあなんだよ、とエドワードは次第に苛々し始めた。



青年はアルフォンスと名乗った。

昼間、ハボックにメモリの増設をしてもらった後、急に起動してモニターに現れた文字もALPHONSE――アルフォンスだったのを思い出した。あれがつまりこの青年という事なのだろうか。あれこれ考えてみても、知識が乏しいので納得できる結論に行き着かなかった。

アルフォンスとは一体何者で、どうして突然エドワードのPCに現れて、どんな仕組みでエドワードと対話しているのか。
分からない事は聞けばいい、と思い付く限りの疑問をアルフォンスという青年に投げてみる。

『僕はプロセス管理やメモリ管理を割り当てられて作成された仮想システムだ。ユーザーナビを目的にしているし、ハードウェアを抽象化したインターフェースをアプリケーションソフトウェアに提供する意味ではオペレーティングシステムと思ってもらって構わないよ』
『……………………』

言葉が難しくてわからない。エドワードは頭を抱えた。 頭が痛くなってきて、エドワードは終了メニューにカーソルを合わせた。思考回路が限界なので寝ようと思ったのだ。もしかしたら今日の事は全部夢で、寝て起きたらこの青年がモニターから消えているのではないか、と期待もしていた。

『寝るの?おやすみなさい』

モニターからオヤスミを言われ、エドワードの動きが止まる。さっきから気になっていたのだけれど、何故エドワードの挙動がモニターの中から分かるのか。もしかしてこれ、モニターじゃなくてマジックミラーとかなのか?じゃあコイツはPCの中に入ってる人?――駄目だ、だいぶ疲れている。

『エドワードの姿は、カメラでこっちからも見えてるよ』

アルフォンスの言葉にエドワードは慌てて振り返って部屋中を見回した。

『違う違う、盗撮じゃなくて……』

PCのモニターの上辺りに小さなレンズがあるだろうと教えられ、エドワードは初めてそのレンズの存在に気付いた。そこに映る範囲でエドワードの挙動が見えるのだと言う。アルフォンスはあれこれ説明をしていたが、専門用語なのかエドワードにはさっぱり理解できなかった。

『これからは君の役に立てると思うよ。改めてよろしく、エドワード』

電源を切る間際にそう言われた。花も綻ぶような青年の笑顔を見て、畜生かっこいい、と迂闊にも頬が熱くなったが、PCの電源は既に落ちていたので向こうには気付かれなかったと思う。


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