nearly equal

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「明日は礼に手伝いしようぜ。力仕事とか、壊れたモンの修理とか」
「うん」

エドワードが寝転んでいるベッドを通り過ぎ、アルフォンスは何の気なく窓の前に立った。老夫婦の家は山間の町の奥にあった。幾らか高台に建っているようで、窓からは駅に灯る明かりが見下ろせる。この家までの道すがらにはいくつかの店々が並んでいたが、もう明かりを落としてしまったようで、月明かりにぼんやりと影になった町並みが見えるだけだった。
アルフォンスは窓を開け、身を乗り出して辺りをぐるりと見回す。老夫婦の家に着く前に見た、山の中腹の森からピョコンと頭を出していた建物を探した。売店主の老人によると、山には昔の領主がすんでいた古城があるそうだ。

「さみぃ」
「ごめん、ちょっとだけ」

くしゃみをして毛布の中にもぞもぞ潜り込んでいくエドワードに謝って、アルフォンスは更に身を乗り出した。なかなか、目当ての物を見つける事が出来ない。ここからだと裏手になるのか――エドワードがもうひとつくしゃみをしたので、アルフォンスは慌てて窓を閉めた。

「どこ行くんだ、アル」

アルフォンスが部屋の扉の前に立つと、蓑虫になっていたエドワードが毛布から頭を出して訝しげな顔を見せる。

「ちょっと。家の周りをぐるっとしてくる」
「ん」

睡眠を必要としないアルフォンスの夜の散歩はいつもの事で、エドワードは短い返事を寄越して再びシーツに潜り込んでしまった。睡眠の邪魔になる分厚い本や研究手帳をエドワードがベッドに持ち込んでいない事を確認して、アルフォンスはそっと、兄弟に貸し与えられた部屋を出る。
そっと、そっと。足音を響かせて老夫婦を驚かせてしまわないように。アルフォンスは足音を潜ませて廊下を渡り、階段を下ったが、階段の途中でランプと毛布を手にした老婦人とばったり出くわして、気遣いは気苦労に終わった。

「眠れないの?もしかして、やっぱり少し寒いかしら。今ちょうど、毛布を持っていこうと思ったのよ」
「ありがとうございます。大丈夫、毛布は足りているから」

確かにエドワードは少し寒そうにしていたが、寒ければそのうち自分で空いているベッドから毛布を取って被る筈だ。アルフォンスは眠らないし、寒さも感じないから毛布は必要ない。
老婦人の心遣いに感謝し礼を言うと、婦人は笑ってアルフォンスをキッチンへと誘った。


「うちの人はもう休んでしまったけど、私は何だか寝付けなくて。お客様なんて久しぶりだから、少しはしゃいでしまっているみたい」

ランプの明かりだけが灯るキッチンで、二人は向かい合って椅子に腰掛けた。まるで秘密のお茶会ね、と老婦人は少女のように笑った。紅茶をポットに注ぎ、アルフォンスにも勧めてくれるので、アルフォンスはさすがに心苦しくなって頭を下げて辞退した。

「僕、食事を取れないんです」
「まあ、ご病気なの?」
「病気というか、体質というか…、せっかくお食事も用意して下さったのに、口を付けずに、ごめんなさい。とっても美味しそうだったのに、ごめんなさい」
「まあまあ。謝らないでちょうだいな、私はちっとも気にしていないから。『美味しそう』って言ってもらえるだけで嬉しいわ」

にこにこと笑う老婦人に、アルフォンスは自分の、自分たち兄弟の事を話した。



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