1 サウスシティから東部を経由してセントラルに向かう途中、列車事故に因る路線運休で当座の移動手段を失くした兄弟は、東部と中央の中間に位置する小さな町に降り立った。 山間の小さな町に一軒だけあった宿屋は、同じように列車から放り出された乗客ですぐに満室となってしまい、乗車した途端に熟睡だった兄を引きずって列車から降りた二人は完全に出遅れ、今夜の宿探しに難儀していた。 「ユニ…って、ココどこ?…まあ、隣町まで行けば何とかなるだろ…」 「一番近い町で十マイルだって。隣町に着く前に夜が明けちゃうよ」 既に太陽は沈みかけて、夜が迫っていた。閉店作業にかかっていた駅の売店主に声を掛けると、この町はどの店も閉店時間が早くて長居は出来ないと教えられた。季節は春に近いと云っても、夜の野宿はまだまだ厳しい。路線の復旧を待って駅に居座るにも、構内に吹き込む風は夕暮れとともに冷たくなってきていた。 「なんならワシの家に泊まるかい?婆さんと二人暮らしの狭い家だが、布団くらいなら貸してやれるよ」 売店主の老人の誘いに、兄弟は一も二も無く肯いた。 「婆さん、今日は土産があるよ。でっかいのとちいさいのがふたつ」 「まあまあ、可愛いお土産ですこと」 禁句に反応して弾け出しそうになる兄を押さえ付け、アルフォンスは案内された売店主の家で夫の帰りを待っていた老婦人に頭を下げた。 売店主が事の次第を説明すると、老婦人は「あらあらそれは難儀しましたねぇ」と、二人に紅茶を淹れてくれ、増えたお土産分の食事を作り足さなくてはと笑って台所に引っ込んでいった。 「すいません、食事まで」 「うちの婆さんは料理好きでな。なのに二人っきりなもんだから、自慢の腕を揮う機会がなくていつも鬱々しとるんだ。宿賃代わりに婆さんの気晴らしに付き合ってやってくれ」 顎にたっぷりと蓄えた白髭を撫でながら片目を瞑る老人に、兄弟は顔を見合わせて笑った。 心尽くしの夕食を平らげ、夜も深まるまで老夫婦と語り明かした兄弟は、列車が動くまで好きに使って良いと二階の空き部屋を貸してもらった。 「ああ、満腹だ」 二つ並んだベッドに倒れ込んだエドワードは、満面の笑みで呟いた。夕食に並んだ料理はどれもこれも手が込んでいて、食欲を失って久しいアルフォンスも思わず唾を飲み込んでしまうほど美味しそうに見えた。 「いい人達だね」 せっかく老婦人の用意してくれた食事に手を付けられなかったアルフォンスにも、老夫婦は穏やかに接してくれた。子供と鎧の二人連れのこちらの事は何も詮索せず、替わりに自分達の話を聞かせてくれた。二人ともこの町で生まれて過ごし、この町で夫婦になった。息子夫婦がセントラルに住んでいる。二人とも歳なので、息子夫婦は一緒に暮らそうと言ってくれるのだが、この町から離れ難くてなかなか決心が付かない、と。 ←text top |