nearly equal

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両親が居ない事、母親が死んだ後、寂しさに耐えられずにとても許されない罪を犯した事。その罰を受けて、アルフォンスは鎧の姿になってしまった事。エドワードもまた罰を受けて、右手と左足が機械鎧の身体になってしまった事。元の姿に戻る方法を探して、ふたりで旅をしていること。

老婦人は、時々相槌を打ちながら聞いてくれた。話し終えたアルフォンスが口を閉じると、老婦人は手にしていたカップの紅茶を一口飲み込み吐息を吐き出した。

「あなたはまるで、魔法をかけられた王子様ね」


中身の無い空っぽ鎧のアルフォンスを怖がる様子もなく、かといって与太話と呆れている風でもなく、老婦人は真剣な表情で、そんな事を言った。

「魔法をかけられた王子様?」
「そう、童話でもよくある話だわ。大体はお姫様だけど、たまに王子様も悪い魔法使いに魔法をかけられてしまうのよ」
「はあ」

やはり、俄かには信じられない話だろう。突拍子の無い話を聞かされて、老婦人も応答に困ったのだろうとアルフォンスは思った。

「でも大丈夫よ、物語の最後はいつも、王子様が現れて呪いを解いてくれるから…あら、でも、あなたは王子様だから、現れるのはお姫様ねえ」
「はあ」

おばあちゃん、もしかしてちょっとボケてますか。さすがに口にはできないがそんな事を思ったアルフォンスに、老婦人はにっこりと笑い掛けた。

「ねえ、王子様は、裏山の古城をご覧になった?」
「おばあちゃん、僕は王子様じゃなくてアルフォンスだよ――ここに来る途中にちらっと目にしただけで、お城はまだ、ちゃんとは見てません。散歩がてら、ちょっと見てこようかと思ったけど」
「じゃあ見ていらっしゃって。鍵は開けておきますから、戻ったらちゃんと閉めておいてくださいな」
「――はい」

何だか含みのあるような婦人の言い回しに、アルフォンスは急にぞわぞわと落ち着かない気分になった。何だかまるで、魔法の呪文のように聞こえる。ランプに照らされた、優しい老婦人の顔が急に、童話に出てくる魔法使いの老婆のように見えてきた。

「あの古城はね、とっても有名な物語の舞台になったお城なのよ」
「……、あ」

老婦人の言葉は、やはり魔法の呪文だった。それは悪い魔法使いえの唱える不吉な呪文ではなく、アルフォンスの頭の片隅にずっとひっかかっていた何かをすっと取り払ってくれる良い呪文。柔らかそうな皺のお顔でにっこりと笑うおばあちゃんは、良い魔法使いだった。

「じゃあ、ここの地名は、やっぱり」
「あら、ご存知だったの?」

駅に着いた時から、駅名に聞き覚えがあって気になっていたのだ。兄弟の故郷かれているその物語は、アルフォンスに限らず誰もが知る物語で、そのモデルとなった古城が東部の小さな町にあることを、アルフォンスは以前に本で目にして知っていた。
何よりその物語は兄弟の母親が好きだった童話のひとつで、幼い頃は何度も寝物語で話してもらったものだった。もっとも母親が語り聞かせてくれたそのストーリーは、当時から父親の書斎に忍び込んで錬金術に関する書物を読み漁っていたエドワードには母親が物語の冒頭を話し始めたあたりで既に退屈になってウトウトしだすくらい、とても少女趣味に改竄されたラブロマンスだったが。

母親が身振り手振りを交え、情熱的に語り聞かせてくれた物語。そのタイトルは――『眠れる森の美女』。 








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