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揚羽蝶は華に縛られ2

「『緊縛師アルフォンス・エルリック』…?」
「よろしくね。アナタの名前は?」

緊縛師=エロ親父の方程式を崩されたエドワードは暫し硬直した。
人は見掛けによらないとは正にこの事だ。
爽やかそうな顔立ちのこの青年がSM道を極めた人かと思うと、エドワードの脳は激しい痛みを訴えた。

「エドワード……です…」

ちょっぴり声が裏返ってしまったが、アルフォンスは気にならない様子でエドワードを見つめている。

「……」
「…………」

無言で見つめられ、エドワードは居たたまれず叫び出したいのをじっと堪えた。

正直、怖い。
緊縛師なんて名乗る位だから、当然アルフォンスはS、サディストなのだろう。
Sの方の琴線がどこにあるかなどエドワードには分からない。もし興味を引いてしまって襲われたりしたら、逃げられそうにない。

(道具いっぱいあるし…!)

そんな事を考えて青くなるエドワードに気付いたのか、アルフォンスは困ったように笑い、一歩下がってエドワードとの距離を取ると優しく声を掛けた。

「誰彼構わず、って訳じゃないんだからそんなに怖がらないで?」
「あ、す、すいません…」

自分が失礼な事をしたと気付き、エドワードは顔を赤くして謝る。
偏見で人を見るのは最低の行為だと思いながらも、それをしてしまう自分が恥ずかしかった。

アルフォンスは優しく笑い、隣に腰を下ろしてエドワードの顔を覗き込んでくる。

「僕を怖いと思う?エドワードさん」
「…怖くない、です。あと、"エドワードさん"なんて堅苦しい呼び方、され慣れてないから、エドでいいです」
「エドの口調も堅苦しいね。多分、僕の方が年下だと思う。敬語はやめて」
「年下?」

実年齢より年下に見られる事が多いエドワードだが、それでも二十歳になる。
未成年?と恐る恐る尋ねると、アルフォンスは苦笑して小さく頷いた。

「うん。僕今年十九歳だから」
「………!」

十九歳のSMマスター。
エドワードは再び疼き始めた頭を抱えた。

「本なんかには僕の詳しいデータは載せてないから、今までずるずる来ちゃったけど…」
「え、え…不躾だけど、一体何歳から緊縛師やってんの…?」
「うーん…十六歳位からかなぁ…」

エドワードは真っ白になった。どんな育ち方をすれば十六歳で緊縛が出来る人間になるのだろう。
生まれついてのドSなんだろうか。十六歳で荒縄とか蝋燭とか下僕とか……



エドワードが知る限りの偏ったSMの知識が頭をよぎり、赤くなったり青くなったりして混乱していると、アルフォンスはまた苦笑し、ソファーから立ち上がってエドワードと距離を取った。

「あ……」

広くなったソファーに、エドワードは不思議と空虚な気持ちになる。

変な気分だと思っていると、立ち上がったアルフォンスは壁に掛けてあったラバーテープを一組持ってエドワードの座るソファーに戻って来た。

「じゃあ、上着脱いで?」
「っええぇっ!?」

飛び上がったエドワードに、アルフォンスは小さく笑って「上着だけでいいよ」と続けた。

「僕の縛りがどんなモノか分からないと、安心して仕事出来ないでしょ?服の上からラバーテープで軽く巻くだけだから」
「は……はぁ……」

そういうモノなのだろうかと僅かな疑問を残しながらも、エドワードは上着を脱いだ。

赤いパーカーとジーンズ姿のエドワードに、アルフォンスは手早くテープを巻き付ける。

エドワードの首から下げられたテープにくるくるとテープを絡めていくと、何度かそのテの本やテレビなどで見た事のある形になっていく。

「これが亀甲縛り。名前は聞いた事あるでしょう?」
「あ、うん」

亀の甲良のように張られていくテープを見ながら、アルフォンスの手際の良さに驚く。

「鏡見て」

アルフォンスの声に、エドワードは顔を上げて鏡張りの壁に目を向けた。

「ぅ、わ………」

赤い服の上から巻かれた黒のテープに目が釘付けになる。
それ程強く縛られている感じはしないのに、鏡に映る姿はエドワードの身体の線まではっきり判った。

羞恥からか、顔に熱が集まるのを感じる。
鏡の中の自分が赤い顔をしているのが目に入り、エドワードは益々羞恥を煽られた。

ちら、とアルフォンスを見れば相変わらず穏やかな笑顔で、それだけが救いのように感じてしまう。

「そんなに嫌なものじゃないでしょ?」
「……いいモンでもないけどな」

認めたくなくて減らず口を叩いてしまうが、瞳は潤み膝には力が入らないで震えている。
エドワードが感じているのは明らかだった。

「こっちに座ろうか。おいで、エド」

アルフォンスに肩を抱かれ、耳元で囁かれるとエドワードの身体は大きく震えた。
覚束ない足取りで誘われるままに鏡張りのフロアに進むと、アルフォンスは壁に掛けられた拘束具の中から細長い筒状の物が付いた紐を取った。

「それは…?」
「口に填めるんだ。この棒をしっかり噛んで、舌を噛んだりしないようにね」

云われるまま筒の部分を噛むと、アルフォンスは手をエドワードの後頭部に回し、金具を留めて固定した。

「んぅ……」
「苦しくない?痛かったら外すけど」

エドワードはふるふると首を横に振った。

服の上からとはいえ縛られて、口枷まで填めているのに不思議と心は落ち着いている。
アルフォンスがなにかと優しく気遣ってくれるからだろうかと考えてぼんやりしていると、口枷を噛まされ開いた唇の端から唾液が滴り落ちて、エドワードは我に返った。

「ぅう!んうっ……!」

口枷のせいで喋る事も出来ない。

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