ふたたびアナタに恋をする 7 漸く任務から帰ってきたキバとシノが詳細を聞き付け病室へと訪れたのは昼過ぎの頃。 妹のハナビが一度眉を顰めたのだが、一緒に訪れていたネジが中へと招きいれ、最初から病室に居たいのと進行状況を確認しに来た綱手が揃い、結構な人数が数日振りに訪れヒナタは少し驚いた顔をするが、黙って綱手の診察を受けていた。 「ふむ……昨日よりよほど安定しているね。何かあったのかい?」 「え、あ……そ、その……えっと……」 「綱手様、それは野暮ってもんですよ」 いのがひそりと綱手に耳打ちすれば、ナルホドなと納得したような顔をして頷き、枕元にある花を見た。 「ふーん、ソイツはよほど気が利くと見える。新しい花生けて帰ったんだね」 「そうなんですよねー」 「姉上、昨日私が帰る前に、そのような花はなかったと思いましたが」 「え、あ、あの……えっと……そ、そのっ……だ、だから……」 真っ赤になって指を突き合わせる仕草に、アカデミー時代みてーだなとキバが苦笑すれば、相手はおのずと分かるもの。 「何だ、ナルトの奴来てたのかよ」 「……ナルトは気が利く。何故なら、ヒナタのことをちゃんと見ているからだ」 キバとシノの言葉を聞きながら、ヒナタはやはり昨夜のナルトを思い出し、体の芯が熱くなるような感覚を覚えては、はふっと悩ましげな吐息を漏らした。 「恋する乙女ってカンジよねー」 「い、いのちゃんっ」 「姉上、記憶は……戻られたのですか?」 「い、いいえ……」 「それでも、うずまき殿にまた恋したワケですか?」 「は、ハナビっ」 これは驚いたという顔をしたハナビに対し、こんな大勢の前で暴露されて居た堪れないとヒナタは顔を真っ赤にして俯いてしまう。 「ふむ。どうしてまた惹かれたのか疑問です。ここ数日、顔も出さなかった人を……」 「え、あ……う、うん……だ、だけど……それは、私の為に必死に走り回ってくれているワケで、それで……くたくたになって……弱ってしまって……あんな……悲しい顔……」 と、そこまで言ってハッと口元を手で覆う。 これ以上は言えないとばかりのその様子に、綱手はニヤニヤと楽しそうな顔をしてヒナタの顔を覗き込む。 「そういえばね、文献でこう書かれてあったんだよ。魂を構成するのに抜き取られる花にも種類がある。……ヒナタが抜き取られたのは赤だったね」 「は、はい……そう……聞いております」 「赤っていうのは、愛情。赤ければ赤いほどその想いは強い。血よりも赤けりゃ、極上モノらしいよ」 「わ、私自身は……見ておりませんから……」 「見事な赤でした!血など対象にならぬほどっ!」 ハッキリキッパリ言い切った妹に対し、ヒナタは真っ赤になって制止する言葉も見つからず、小さく呻き突っ伏す。 「ま、照れることはないさ。ここにいる皆、そんなことは百も承知だからね。今回ソレでお前たちがどうなるかのほうが心配だったワケさ。ナルトも覚悟を決めたようだし、万々歳というのはこの事だね」 「……覚悟……」 「そうだろ?昨日、お前に会いに来たのはソレを告げるためじゃないのかい」 思い出した言葉に真っ赤になったヒナタは、恐る恐る、聞きたかったことを唇に言葉として乗せた。 「あの……記憶を失っても……なくても……傍にいたいのは……我侭でしょうか」 「ナルトは何て?」 「え……あの……ま、まだ、聞いていません」 ふるりと震えた瞼と、体。 それを見つめながら、綱手は苦笑を浮かべる。 答えは聞かずともわかっている。 だからといって、代弁していいものか迷うところだなと思案していると、いのが動き、ヒナタの両手を握った。 「ねぇ、今朝ナルトが来たときに言ってた『昨日の言葉に嘘は無い』って、どういう意味?」 「っ!」 ハッとした顔をしていのを見つめれば、いのは微笑みながらヒナタに優しく問いかける。 ずっとアカデミー時代から、ヒナタのナルトへの思いを見てきたいのは、他人事とは思えないで居たのだ。 一途に思い続ける。 それがどれだけ難しいことなのか、いまならわかるから── 「ナルトは何ていったの?」 言葉にしてもいいのだろうか、全て幻だったのでは……と思いながらも、枕元にある花を見れば、あれが夢でないのだと知る。 彼が来ていたときには気づかなかったけれども、朝起きて新しい花が生けられているのに気づいて、心が締め付けられるほど熱くなった。 「記憶が戻らなくても……私を……諦めない……」 噛みしめた言葉の意味。 それは、離すつもりは無いと、暗に告げられていた。 「だったら、我侭でもなんでもないじゃない。ナルトもそう望んでる。だったら、それでいいんじゃないの?」 「いいの……?記憶がないのに、苦しめてしまうかもしれないのに……」 「それすら受け入れて、一緒にいたいって思ったんでしょ?お互いに」 ぽろりと零れ落ちる涙。 嬉しいのか、切ないのか、悲しいのか、辛いのか、よくわからない涙が零れ、赤丸が心配そうにくぅんと鳴き、ハナビは姉のそんな様子に言葉も無く、今まで黙ったままのネジも心配そうに眉根を寄せているハナビの肩に、静かに手を置いた。 「まー、アレよ、覚悟決まったナルトは強いんだから、平気よ。ね、綱手様」 「ああ、あのバカは今頃大暴れしている頃だろうさ」 「てことは、もう問題の花の場所がわかったってことかよ」 キバの言葉に綱手は静かに頷く。 「全く、ナルトの奴かなりの無茶をしたからな。問題が解決したら、存分に甘えさせてやれ」 「あ、あま……あまえ……っ!?」 真っ赤になって綱手を見るヒナタに、一同が笑みを零し、久しぶりにあたたかく優しい笑顔に病室が明るくなった。 ヒナタが倒れてからこれほどまでにあたたかく優しい時間があっただろうかと、ハナビは首を傾げ、その中心にいつも、姿が無くとも、うずまきナルトという存在がいるのだと改めて認識し、複雑な気分で姉を見つめた。 (恋と言う物は、人をより強くも弱くもするものなのだろうか……まだ知らぬ心。いつかは知ることになるのか) その時、姉のようなステキな顔が出来るような恋をしてみたいものだと、姉の様子を遠くから眺めるのであった。 |