ふたたびアナタに恋をする 6





「あら?ヒナタ、今日は元気ね」

 そう言って入ってきたいのに、ヒナタは緩やかな笑みを浮かべる。

「うん、今日は……凄く体が軽いかな」

「ふーん?昨日は話しかけても魂抜けてるカンジだったのに、今日はしっかり意識あるのねー。何かいいことあった?」

 ぽふんっ

 と、わかりやすく真っ赤になったヒナタを見て、ははーんといのは目を光らせた。

 ヒナタがこういう顔をする相手は一人しかいない。

「ナルホド、ナルトが来たわけね。アイツ物凄く忙しいはずなのに、よく時間があったわねー」

「そ、そんなに……?」

「ええ、花の出所、1200箇所にも及ぶんですって。そこへ全部影分身を飛ばして情報収集しているから、ヘロヘロのはずなのにねー。やっぱりヒナタに会いたかったのね」

 文献にあった花を探して飛び回るナルトを思えば、大人しく待っているくらいなんでもないように思えて、ヒナタは困ったように吐息をついた。

「カカシ先生とサイもそれぞれ当たってるし、情報収集はシカマルが統括してるし、サクラもヤマト隊長も日向の屋敷にあの花を生けた人物を探しているし、中々忙しいわね」

「私の……それなのに、何も出来ない……」

「いいえ、ヒナタ。アンタはアンタで頑張ってるって。魂が欠落した状態で、これだけ自分を保っているなんて、普通無理なんだって古い文献に書かれてあったのよ。ほとんどの場合、意識が戻らず三日後には……だけど、ヒナタは意識があって、しかも、今日なんてこんなに元気なんだからビックリよ」

 その文献に何が書かれているのか気になったが、ヒナタは黙っていのの言葉に耳を傾けていた。

 すると、バタバタと廊下が騒がしくなり、勢い良く扉が開くと、ナルトが飛び込んできて、手にしているものをヒナタに向かってポンッと投げてよこす。

「今日は元気良さそうだなっ、今からちーとばっかし出なきゃなんねーから、また後でなっ!ソレでも食って、大人しくしてろよっ!」

「ナルトーっ!」

「今行くってばっ!んじゃ、いの、ヒナタを頼んだぜっ!ヒナタ、昨日の言葉は嘘じゃねーからなっ!」

 それだけ言い残すと、まるで嵐のように去っていく姿に、いのもヒナタも目をパチクリさせて、それから顔を見合わせてクスクス笑い出す。

「本当に、アイツったら落ち着きないんだからー」

「ふふ、でも……元気で良かった……昨日は元気が無かったから心配していたの」

「……アイツの元気の無い姿を見ることが出来るのは稀なはずなんだけどねー。ちなみに、ソレなんなの?」

 投げてよこされた紙袋の中身が気になり、開いて見てみればシナモンの香りが漂う。

 ふんわりとしたパンの焼けた香りとシナモンのいい香り。

「焼きたて……の、シナモンロールだ……うわぁ……ここの店のが一番好きなの」

「本当にナルトの奴マメよねー、ヒナタの好きなものちゃーんと知ってるんだから」

 改めて言われて赤くなりつつも、ナルトの出て行った病室の出入り口を見て微笑む。

「ねぇ、いのちゃん」

「なに?」

 ヒナタに分けてもらったシナモンロールがとても美味しかったのか、頬を緩め、幸せそうな顔をしていたいのは、ジッと病室の入り口を見つめているヒナタの横顔を見ながら次の言葉を待つ。

「私ね……どんなに記憶を失っても……何度記憶を奪われても……きっと……きっとまた恋をする……そう思う」

「……そう、果報者ねー、ナルトは」

「そう……かな?」

「ええ、きっとそうよ。今の言葉聞いたら、きっとナルトは大喜びして大変よー」

 そう言われて、その情景が何故か思い描けたヒナタはクスリと口元を綻ばせる。

 胸にある淡い灯火は、今ではもう明るく輝き、胸を焦がす。

(たとえ死んだとしても……きっと、私はアナタを……ナルトくんを好きになる……)

 甘く疼きを感じる胸に苦笑しつつも、ヒナタはナルトが持ってきてくれたシナモンロールを一口食べる。

 脳裏に蘇る『昨日の言葉は嘘じゃねーからな』という言葉。

 記憶が戻らないとしても、ヒナタ自身を諦めるつもりはないと……

 その言葉に、どういう意味が含まれているかなんて、言わなくてもわかる。

 だけど、言って欲しい……

(私も……記憶が戻らなくても、ナルトくんの傍にいたい……これは、我侭ですか?)

 もう、心にあった大きな穴は気にならない程、熱く強い想いが満たされていく。

 胸にある花のような甘い芳香を漂わせるこの想いは、きっと尽きることが無いのだと、胸いっぱいに黄金の輝きを思い出しながら彼の優しさがいっぱい詰まったシナモンロールを、美味しそうに食べるのであった。







 index