薄暗い廃工場を、眩しいくらいの炎が照らす。
炎の出所は勿論俺だ。
一気に炎圧を上げれば、火柱になって俺の体を包み込む。
大きな炎の力に息を飲む声が聞こえてきたが、奴等も伊達でマフィアをしている訳じゃない。
俺を倒せば世界一の称号を手に入れられるとばかりに、さらに殺気が強まった。
「いい感じだぞ、ツナ。あいつらに最強とはどんな物か、見せつけてやれ」
銃口を俺から今度は辺りにいる奴等に向け直し、リボーンが笑う。
「別に、俺は自分が最強だなんて思ってない…」
静かな声で俺はリボーンに言い返した。
「俺より強い奴はごまんといる」
そう。例えば俺の守護者たち。
それに、ヴァリアーや兄弟子、炎真や白蘭だって俺よりずっと強い。けど…。
ギュッと拳を握りしめる。
大丈夫。炎の出力は、正常だ。
「だけど…」
指輪に炎を込める。
オレンジ色の鬣を持った小さな獅子が、勢いよく飛び出して俺の肩に乗った。
「こういう奴等には、負けちゃいけないことは、わかってる!」
言うと同時に飛び出した。
一斉に銃声が響き、無数の弾丸が俺を仕留めようと放たれるが、
「ナッツ!形態変化!防御形態!!」
掛け声と共にナッツの体がマントへと変化して俺の体を守るように包み込む。
T世から受け継いだマントは、どんな弾丸だろうと決して通しはしない。
一斉の銃弾攻撃をマント越しに浴びながら、俺は意識を集中させ弾の飛んでくる方向を確認した。
相手の居る位置、人数。
そして、この中で指揮を取っ手いるだろう、この場のリーダー的存在の居場所。
まずはすぐ近くの壁際に二人。
その反対側の機械の裏にまた一人。
ベルトコンベアの上に三人。
少し離れた大きなタンクの陰に四人。
それから…。
(ひとつだけ、他とは違う殺気を感じる…)
他にも何人かの気配を感じるが、その中でも一際大きく、そして他の者にはないこちらを挑発するような気を放っている奴がいた。
恐らく、そいつがこの場を束ねている奴だ。
そいつの居る場所を探ろうと気の出所を追いかけるが、うまく隠れているのか居場所までは追えない。
(なら、まずは近場から攻めて、引き釣り出すまでだ…!)
一気にまた炎の出力を上げる。
轟音と共に天井にまで届くほどの火柱を上げれば、一瞬だけ怯んだように銃撃が止まる。
その一瞬があれば、充分だった。
両手の炎を使って跳躍し、近場に隠れていた奴等の背後に回ると、奴等が振り向くより先に一撃を喰らわせる。
ゴッと響く打撲音に辺りが気がついて慌てたようにこちらへ銃口を向けるが、既に遅い。
目の前のベルトコンベアを炎で強化した手刀で焼き切る。
根本を切られたコンベアが音を立てて崩れ落ち、悲鳴と共にコンベアの上にいた奴等も落ちてきた。
崩れた機械によって立ち込める土埃で視界が遮られたが、俺はそれを逆に利用して上空に躍り出る。
空は、俺の領域だ。
伊達に大空を名乗っちゃいない。
空中戦なら、簡単には負けない自信はある。
…多分ね。
そんな事を考えている内にようやく視界が晴れた。
すぐに奴等は俺の姿を探すが、空中に居る事に気がつかない様子でウロウロと狼狽える姿を上から黙って見つめる。
「居たぞ!」
ややしてようやく中の一人が俺を見つけて叫んだ。
同時に銃口がまたこちらに向けられるが、俺は構わずに見下ろし、
「ナッツ」
小さな相棒に声をかけた。
その呼び掛けに応えるようにナッツはコクリと頷いて、向かってくる弾丸を恐れる事なく大きく吠えた。
小さな見た目にからは想像も出来ない雄々しい咆哮に、辺りの空気がビリビリと振動する。
同時に飛んできた弾丸が威力を失って落下し、機器類も振動によって大きく揺れながら崩れ、各所に隠れていた奴等が次々と姿を現した。
「洗いだし完了」
「ああ。上出来だ」
俺の真下に優雅な立ち姿で現れたリボーンが、地面に這いつくばっている奴等に向けてゆっくりと銃を構える。
「わああ!!」
死神と呼ばれるリボーンに銃口を向けられたのではもう生きた心地もしないのだろう。
がむしゃらに銃を乱射してくる奴等の弾を、けれどもひとつも掠める事なく全てを避けきったリボーンは、たった一発で相手を黙らせた。
「ぐあっ!」
最初のひとりが声を上げて倒れたのを皮切りに、そのまま次々とリボーンの銃は奴等を沈めていく。
それはもう正確に脚の間接や腕、急所のスレスレに吸い込まれるように撃ち込まれる弾丸。
無駄弾を一切撃たずに相手を倒していく姿は、間違いなく天才だ。
「おい、ボーッとしてんじゃねぇぞ」
いつの間にか殆どの奴等を綺麗に片付けたリボーンが呆れた顔で見上げてきた。
「してない。リボーン、あの陰だ」
ついつい見惚れてしまっていた事をニマニマと指摘されて、俺はプイと視線を逸らす。
後で絶対にからかわれるな…と思いながらも、それを全て誤魔化すように俺はある一点を指差した。
地上で呻いている仲間たちを助ける事もせずに未だ姿を現さない例の気の持ち主。そいつが居る場所を上空から特定して示してやれば、
「ああ」
リボーンも気づいているようで、小さく頷くとそいつの居る方向に向かって歩きだした。
カツンと靴音をわざとらしく立てて近づく。
すると何かを叫ぶ声がそちらから聞こえてきた。
いったい何だ?と目を凝らした…次の瞬間だ。
「くっ!」
「っ!!」
俺とリボーンに向かって複数の稲妻を帯びたテニスボールのような物が突然襲ってきた。
咄嗟に俺は空中で身を捻り、リボーンは銃でそれを何個か打ち落としながら床を転がり直撃を避ける。
バリバリと言う音を立てながらボールは機械や壁などにぶつかると爆発して黒焦げの穴を開けた。
どうやら雷の力を圧縮させて作った兵器のようだ。
「ふん。一丁前に属性を使える奴がいたか」
焦げた穴を見つめながらリボーンが銃にのんびりとした動作で弾を込める。
「そうみたいだな…」
俺もリボーンのすぐ側に着地しながら、肩の上にいるナッツの頭をよしよしと撫でた。
そんな俺たちの態度に、それまでの冷静さが嘘みたいに怒りを露にしてそいつは飛び出してきた。
ピクピクとこめかみをひきつらせて出てきたのは、二十歳前後の男だ。
その手には雷属性の力が込められているらしいロケットランチャーのような物が握られている。
どう言った仕組みかは分からないが、さっき攻撃してきた弾はそれから発射されたようだ。
「なめてもらっちゃ困るぜボンゴレェ。今のはほんの小手調べだ」
チャキッとランチャーを肩に担ぎ直し男が言う。
けれども、あの攻撃が小手調べなどではなく本気の攻撃だった事は、悔しげな目を見て直ぐに分かった。
それに、隠れていた時と違い余裕がもう感じられない。
多分、あの攻撃で俺たち二人を纏めて始末できると踏んでいたんだろう。
だとしたら…
「とんだ見込み違いだったな」
「相手の力量も測れねぇようじゃ、この世界では生きていけねぇぞ」
そう。
この世界ではある程度の力と知恵が必要だ。
その事を俺はリボーンに嫌って言うほど叩き込まれた。
相手の器を測り間違えれば、それはつまり負けを意味する世界。
力の見込み違いにも、程がある。
「うるせぇ!俺様が本気を出せばこんなもんじゃねぇんだ!!」
男がランチャーに炎の注入を始めた。
「止めとけ、痛い目見るだけだぞ」
リボーンが詰まらそうにしてせっかく弾を込めた銃を再び懐に戻した。
「久々に骨のある気を向けてくる奴がいるなと思ったが、話にもならねぇな。殺り合うだけ無駄だ。とっとと帰るぞ、ツナ」
そう言ってクルリと男に背を向ける。
「敵前逃亡か!ボンゴレの幹部もたいしたことねぇな!!」
エネルギーがフルチャージ状態になったらしいランチャーの銃口が、稲妻で光りだした。
「俺は幹部じゃねぇ。家庭教師様だ」
ククッと笑ってリボーンが答える。
その答えに一瞬戸惑った様子の男に、俺は無言のまま右手を突き出した。
「家庭教師だか何だか知らねぇが、てめぇは逃げてもボンゴレはまだ俺と戦うつもりらしいぜ。守らなくてもいいのか?俺の雷が全てを破壊するぜ?」
男は気づかずにまだベラベラと喋っている。
「やれるものならやってみろ」
そう言ったのはリボーンでは無く俺だった。
「残念だけど、あんたの力じゃ俺の守護者の足元にさえ及ばない。そんな程度の攻撃が、この俺に通用すると思ってるのか?」
「なんだと!?」
男の顔が怒りに震える。
あーあ…。あんなに感情を表に出しちゃって…
それでよくこの場を纏める事が出来たなと感心する。
俺の家庭教師様なら、すぐにダメ出しが入る所だ。
まぁ、多分属性の力を使えるからと、それだけでリーダーに選ばれたのだろうけど。
だとしたらこのファミリーは、恐れるに値しない。
力だけで上下が決まる組織じゃ、未来を語る事は出来無い。
「馬鹿にしてんじゃねぇ!!」
「馬鹿にはしてない。事実を述べたまでだ」
「きさま…きさまぁ…!!」
高密度のエネルギーが今にも爆発しようとバチバチと音を立てる。
「もう許さねぇ…。全部ぶっ飛ばしてやる!!」
「ぶっ飛ばされるのは、お前の方だけどな」
男がトリガーに手をかけた所で、今度はリボーンが工場の出入り口付近で帽子を深めに被り直しながら呟いた。




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