「逃げた所で得はないと、わかっちゃいるけど止められない。」




廃屋の工場内に銃声が響く。
ひとつ、ふたつ。
物陰に潜む影もまた、ひとつ、ふたつ…、いや、それ以上か。
缶詰工場であったこの場所は、決して狭いわけではないがそれほど広い工場でもない。
その中に、いったいどれほどの人間が潜んでいるのか。
そもそも、ここに来たのは単なる偶然だった。
雑務処理に飽き飽きして屋敷を抜け出し、でもすぐに抜け出しことがリボーンに見つかった俺はなんとかリボーンを撒こうとこの工場にやってきたのだ。
でもまさかそこで密輸の現場に居合わせるとは思っていなかった訳で…
しかもつい先ほどまで手元にあった書類で読んでいた要注意ファミリーだったなんて、もう話がうまく出来過ぎって言うかなんて言うか…
ばっちり取引現場に居合わせた俺は、ボンゴレが直接制裁の為に乗り込んできたのだと勘違いされ、一斉に攻撃を受けた。
運が良かったのは俺がリボーンから逃げるためにハイパーモードになっていた事だろう。
いや、だつてさ。普通に逃げた所で追っ手はあのリボーンだよ?
5分も経たずに捕まるのが落ちだって。
でも俺はどうしても、30分だけでもいいから休憩が欲しかった。
あの書類の山から目を逸らす時間が欲しかった。
だからさ、本気で逃げた訳だよ。
ハイパーモードになって。
そりゃあね。ちょっとはやりすぎた感もあったよ。
でもリボーンだからさ。そこは全力だよ。いつだって死ぬ気全開だよ。
そんな死ぬ気全開状態でようやくここに逃げ込んだら、まさに受け渡しをしていた両者の丁度真ん中に着地をしてしまった訳で…
奴らにすれば、まるで俺がその決定的瞬間を狙って飛び込んできたように見えたんだろう。
実際は全くの偶然だけど。
で、すぐに奴らは銃を構えて俺に攻撃をしてきた。
俺はハイパーモードになっていたおかげと、奇跡的に発揮された超直感を駆使して弾丸が降り注ぐより先に抜け出して隅にある大きな機械の影に身を隠しんだけども…
「どうしようこれ…」
警戒は解かないまま見つからないよう目立つ炎を放つハイパーモードを一度解除した状態で辺りを見回す。
室内に充満している殺気と怒気が、もう簡単にはここから逃がしてはくれないだろう事を伝えてきた。
さっきはお互い混乱状態だったからうまく切り抜けたけれど、もう同じ手は使えないだろう。
手にはいつでも戦闘体制になれるよう予備で持ってきていた死ぬ気丸を握りしめてはいるけど、この状況…。
例えもう一度ハイパーモードになったとしても、さすがに俺一人では全ての攻撃を避けることはできないかもしれない。
かと言って降参ですとここでのこのこと出て行ったらひとたまりもない事はいくらバカな俺でも理解していた。
「うう…。せめて誰かに連絡が取れればいいんだけど…」
ケータイにはGPS機能がついているからと、屋敷に置いてきてしまったことを今更ながら後悔する。
いっそイクスバーナーで一気に片づけてしまおうかなんて頭を過ったりもしたが、それをして辺りに被害を出し、その処理を後から自分でしなければならないことを考えると、それも嫌で出来なかった。
出来ることなら被害は最小限で済ませたい。
うん、命がかかっているのにそんなこと考えてる場合かって話なんだけどね。わかってるよ、それくらい。
でもね…。でもねぇ…
「それだと、いつも俺が怒っている骸や雲雀さんと同じになっちゃうんだよ…」
無駄な被害は出さないで最小限にとどめろ。
それは常日頃から俺が口を酸っぱくしてボンゴレの破壊魔人の二人に言っている言葉だ。
得る利益より被害総額の方が大きいってどうなんだよ…
あの二人を現場に行かせると、決まって被害総額が倍になるんだ。
だから絶対に無駄な破壊をするなっていつも言っている。
その俺がだよ、ここで破壊行為に走ったらどうなる?
奴らここぞとばかりにこれを口実にして破壊しまくるに決まってる。
もうどんなに注意したところで「綱吉だって破壊したじゃないか」と言われる事なんか目に見えて分かるってもんだ。
挙げ足を取る事に関しては右に出る者はいないよ、あの人たち。
「だからここは、なるべく破壊はしない方向で…」
「なんて悠長なこと言ってる場合かこのボケが」
「っ!!」
不意に背後から声がして、俺は慌てて振り向いた。
壁を背にしているこの位置は、これ以上後ろは無いはずだった。
だからこそ少し落ち着いて考え事をしていたんだけど…
とは言え、声をかけてきた主はすぐに分かったから警戒はすぐに解ける。
「リボーン…」
いつの間に工場内に忍び込んでいたのか、俺の隠れていた機械のすぐ側に身を潜めていたらしいリボーンが呆れた溜息を吐きながら俺の背後に立っていた。
気配なんて全く感じていなかったから驚きだ。
これがもしも敵だったなら、俺はもう死んでいただろうなぁ…
改めてリボーンが味方で良かったとほっとすれば、ポカリと頭を叩かれた。
「痛い!」
「声出すなアホ!」
「うぐっ」
「仕事中に逃げ出しやがって。後でお仕置きだからな」
「……」
ああああ…やっぱりそうだよね…
リボーンの台詞を聞いた途端、背中にドッと嫌な汗をかいた。
くそう。リボーンが来てくれて助かった…と一瞬でも安心した自分が本当にアホだ…。
そりゃそうだろ。リボーンは俺を助けにきた訳じゃない。捕まえるために追って来たんだから。
つまりこの時点で俺の逃走は失敗に終わった訳だ…
「うう…。ちくしょう…」
「ふん、舐めんなよ。それともあれか?実は俺にお仕置きされたくて逃げ出したのか?可愛い奴だな」
「ひっ!」
背後に居たリボーンの手がソロリと俺の尻を撫でた。
まさかこんな所でセクハラ紛いに所そんな所を触られるとは思っていなかった俺は、つい声を上げる。
途端に俺の直ぐ側にあるベルトラインに弾丸が飛んできた。
「ひぃ!!」
キュン!と金属に跳ねる弾丸の音に驚いてリボーンにしがみついた。
「ちっ。流石にここまでギャラリーが多いと犯れねぇな…」
「なにする気だったの!?」
「なにってナニだろ?」
「アホか!」
怒鳴った所でまた弾丸が飛んできた。
そりゃそうだろ。これだけ騒げば馬鹿でも居場所が分かる。
「しかたねぇ、お仕置きは帰ってからにするぞ」
飛んで来る弾丸から俺の身を守りながらリボーンが残念そうに息を吐いた。
おい待て、本気でここで何かする気だったのか…
リボーンの腕の中で危なかったとこちらも息をついていると、今度は額に何か固くて冷たい物を押し合てられた。
「へ?」
「てな訳で、さっさと終わらせてさっさと帰るぞ」
「え?」
言われた意味がよく分からなくて顔を上げれば、押し合てられたそれも顔と一緒に動く。
そっと視線だけを上に動かして正体を見てみれば、それは間違いなくリボーンの愛銃だった。
「えーと。何で俺、銃を突きつけられてるの?」
「この戦場で間抜けにも死ぬ気を解除しているお前を、もう一度死ぬ気にしてやるためだぞ」
「…逃げるんじゃないんだ?」
「バッカお前、せっかく現場押さえたってのにわざわざ逃がす奴がどこにいる?」
ここにいます…とは流石に口が裂けても言えなかった。
「向こうも殺る気満々みてぇだからな。迎え撃ってやるぞ」
「…二人だけで?」
「ふん。この人数なら釣りがくるくらいだ」
ニヤリと笑うリボーンに、どうせその殆どの仕事は俺にさせるんだろう?と嫌な顔になる。
ああ、嫌だ嫌だ。
何で逃げてきたのにけっきょくこうなるんだ…?
出来る事ならもう一度ここでリボーンを振り切って逃走してしまいたい。
でもそこはリボーンだ。
捕まったら最後。もう逃がしてはくれない。
「いいから行ってこい」
カチリと安全装置が外される。
「うっ…」
込められた弾は特殊弾だとわかっていても、この至近距離は怖い。
ギュッと目を閉じたその向こうで、リボーンが薄く笑った気配を感じた。
ああ、くそ!絶対に楽しんでやがる!!
そんなリボーンにムカッときた所で、リボーンがトリガーを躊躇いもなく引いた。
ガウンッ!と銃声が鳴り響く。
辺りがザワリと騒ぎだした。
何事かと覗いてくる視線。
そんな奴等に見せつけるように、撃ち抜かれた額に灯った炎がゴウと音を立て大きく広がった。



---------------------

戻る

-1-


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -