「なに?」
「準備は整った。俺じゃなくボス自らに引導を渡される事を誇りに思えよ?本来ならお前みたいな奴が口をきけるような相手じゃない。まぁ、ツナにしてみりゃ自分で蒔いた種なんだから自分で回収しなきゃなんだけどな?」
ククッと笑うリボーンに、後で覚えてろよと胸の奥で悪態を吐く。
そりゃ確かに俺の蒔いた種だけどさ…
「ツナ、そろそろいいか」
「ああ。もう充分だ」
「何だ?何の話だ?」
確認し合う俺たちに、男は警戒を露にする。
「お前もマフィアを端くれなら聞いた事くらいあるんじゃねぇか?イクスバーナーって名前をな」
「!?」
その名を聞いて男の表情が固まる。
まさか!と俺の顔を凝視してきた。
その目には、まさに炎の発射準備が整ったグローブが見えているだろう。
そう。リボーンは俺を置いて逃げたんじゃない。わざわざこの為に、時間を稼いでくれていたんだ。
会話し、自らに視線を集めて動く事で男の意識を攻撃の準備をしている俺から逸らしてくれた。
ゆっくりとした動作で銃をしまって見せたり、わざとらしく背を向けたりしたのも、全てはこの瞬間の為。
そうしてようやく男は気がついた。俺が男に向けて構えているその手の意味に。
慌てたように逃げようとするがもう遅い。
『ゲージシンメトリー。発射スタンバイ』
ナビゲーションシステムが、攻撃の許可を告げる。
「だから言っただろうが。とっとと終わりにするってな」
満足そうに笑うリボーンとは対称的に、男の顔はみるみる青ざめていく。が、
「くそぉおお!!!」
ならばせめて相討ちをと男が力を溜め込んでいたランチャーの引き金を引いた。
「くたばれボンゴレぇえ!!」
稲妻が鳴り響く。
轟音と共に先程より大きな塊のボールが放電しながら俺をめがけて撃たれた。
あわよくば相殺を…なんて事も考えているのだろう。
けれど、そのくらいの攻撃じゃ俺の炎は止められない。
「イクスバーナー!!」
叫ぶと同時に高圧の炎が手の平に集まり、そして、
「おおおお!!」
柔の炎に体を預け、押し出すように炎を放った。
ドンッと爆発する音と共に炎が辺りを飲み込んでいく。
床も壁も機械も。当然、男の放った稲妻のボールも。
全てを飲み込み焼き払い、そして炎はついに男さえも丸飲みした。
「これで…終わりだ!!」
視界の全てが大空の炎で埋め尽くされた事を確認し、仕上げとばかりにもう一発炎を爆発させた。
激しい炎に建物自体も所々崩れ落ち、熱に耐えきなくなったように溶けていく。
その溶けた鉄の中に男が沈んでいく姿を見届けた所で、拳を握り炎を断ち切った。
シュウシュウと煙がノロシのようにあちこちから上がる。
跡形もなく崩れ落ちた墨だらけの廃屋跡で、立っているのはもう俺とリボーンの二人だけだった。
呻きながらしぶとく転がっている奴等を、感情の無い瞳で見下ろす。
「お前達のボスに伝えておけ。ボンゴレが正式に制裁を与える為に動き出したと。逃げても無駄だ。どんなに高跳びしようと、ボンゴレは暗殺部隊を使ってでも地の果てまで追いかけて制裁を与える」
はっきりと宣言した。
それを言うことでどちらの立場が上なのかを認識させるためだ。
この中にいる何人かは正式な幹部では無いかもしれない。
多分、そのまま本部へは帰らず逃げる者もいるだろう。
けれど、別にそれはそれで構わなかった。
俺が言った言葉は、確かに半分はこいつらに向けた言葉ではあったけれど、実際はリボーンにこのファミリーへの討伐を要請した言葉だからだ。
もう、これ以上の調査はいらない。現場は押さえた。直ぐにでもやつらのアジトに突入しろ。
抵抗するならヴァリアーの出動も許可する。
そんな意図を込めて言った俺の言葉を、リボーンは違える事なく瞬時に理解して「上出来だ」と楽しそうに笑った。
そうしてケータイを取り出すと、二言、三言だけ会話をしてさっさと伝達を終える。
多分、雲雀さんか骸に連絡をつけたのだろう。
あの二人なら、多くを言わなくともすぐに理解してくれる。
元々、この件に関しても調査をしていたのはあの二人だ。
骸は潜入を。雲雀さんは外側から組織の繋がりを。
(ああ…。きっと全壊するまで暴れるんだろうな…)
トホホと思わず肩を落とす。
仕方ない。自分がこれだけ暴れたのだから、二人を止める事なんか出来るはずもない。
「よし、帰るぞ。ツナ」
さらに何処かへと連絡を取っていたらしいリボーンが、ケータイを仕舞いながら俺を促した。
俺は緩慢に頷きながら、後はもう振り返る事もせずにリボーンの後を追う。
ああ。帰ったらまたあの書類の山との格闘が待っている。
ついでに雲雀さんと骸が持ってくるだろう被害請求書の事を思うと、胃が痛くなった。
「ん?あれ?」
と、そこまで考えて何か忘れているような気がする事に気づく。
俺、何か大変な事を忘れていないか?
リボーンの後ろを歩きながら首を傾げた所で、不意にリボーンが俺を振り向いた。
「屋敷に帰ったら、たっぷりお仕置きタイムだからな?」
ニタッとした悪魔のような笑みでリボーンが言った。
「…あ」
途端に思い出した。
そうだ、俺、リボーンから逃げてきたんだった!
それで捕まってお仕置きだって言われて…
(ヤバい。これ、帰ったら何をされるか分かんないよ…て言うか絶対にアレだ!)
サッと青ざめたまま足を止めた。
リボーンは嬉々としてどんな事をしようかと候補をあげていく。
「先月に仕入れたバイブはよく動くらしいぞ。そう言えばヴェルデが面白い薬を作ったらしくてな。アソコに塗ると、絶妙な痒みに襲われて、擦って欲しくて堪らなくなるんだと。実験体を探してたからな、身をもって協力してやれツナ。後は確か…」
次々と出てくる危険なアイテムに、俺の足は一歩、また一歩と後方に下がった。そして…
「そう言や、猫の尻尾がついたバイブも…ん?ツナ?」
距離が離れた事に気づいたリボーンがこちらを振り向く。
けれども、リボーンが振り向くのとほぼ同時に俺は空へと飛び出した。
「あ!てめっ!このやろ!!」
リボーンが直ぐに戦闘後に弾を込め直した銃で威嚇してくる。
それでも俺は構わずに、全力で飛んだ。
なりふり構わずに、飛んだ。
そう。リボーンがあれこれと考えている間に、俺はさっき飲まなかった死ぬ気丸を素早く飲み込んだのだ。
どうしてかって?
そりゃ当然、逃げるためだろ!
だって今一緒にリボーンと帰ってみろよ。
俺、今夜は絶対に眠らせて貰えない!足腰絶対に立たなくなる!
え?今逃げたって後からどうせ同じ目に合う?
分かってるよ、恐怖を後回しにしてるだけだって。
でもさ…でもさ…!
怖いものは怖いんだよ!!
「うおおお!!」
俺は持てる限りの力を使って逃走した。
リボーンが後から追ってくる気配を背中にビシビシと感じながら、それでも炎の出力を一切下げる事なく逃げまくった。

…そうして。結論から言えば、当然俺は捕まった…
ガス欠状態で山に落ちた俺を、最後まで見失わずに追ってきたリボーンによって回収され、その後三日ほど部屋から出して貰えなかった…
思い出すだけでも恐ろしい地獄の性教育に止めてくれと何度言ったか分からない。
途中から俺も訳がわからなくなってちょっとねだったりしちゃったけど、それもこれも全部リボーンのせいだ!
お陰でしばらくは声も出なくなったし、体も動かないから仕方なく部屋で仕事をするって言う情けない事態になった。
例のファミリーについては、案の定雲雀さんと骸が跡形もなく壊滅させて終わった。
あまりの激しさに被害が何ヵ所かに飛び火して、そのたびに処理に追われた事は言うまでもない。
文句を言ってやりたかったけど、「工場を全壊させた奴に言われたくない」と両サイドから痛い突っ込みを入れられては、何も言い返してやることなんてできなかった。
今回の事で、さすがに俺も脱走なんてもうこりごりだと深く反省をした…。つもりだったけど…
「ああああ!やってられるかあああ!!」
執務室で俺は奇声を上げると書類を思いきり宙に投げ捨てた。
「よし。逃げよう」
学習能力がどこか抜けている俺は、あの惨劇など過去の事として処理し、今再びこの屋敷からの脱走する為に窓に手をかける。
「じゅ、10代目!?」
慌てたように獄寺くんが伸ばしてきた手を振りきって、俺は今日も自分の休息の為に逃走劇を始めるのだ。
背後に一番大好きな人の、鋭く怖い視線を感じながら。
「いざ!俺の素敵な休息の為に!」
「待ちやがれこのダメツナがああ!!」
ガウンッと空に銃声が響く。
どうせまた逃げたって最後にはリボーンに捕まるんだろう。
結果なんて分かってる。
でも。
ひっそりとそれを楽しんでるんだなんて、言ったらリボーンは怒るかな?
怒るだろうなぁ。
だから言わない。
これは俺だけの楽しみだ。
あ!決してお仕置きがして欲しい訳じゃないよ!!
あくまでこの追いかけっこが楽しいって話!
オプションみたいについてくるお仕置きは…その…うう…
まぁ、とにかく!
だからこれは、どんなに無駄な抵抗だって分かっていたとしても、どうしても俺には…


「止められない、ってね!」


あ。リボーンには、内緒だよ?


(終)



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