『美坂家の秘め事』83

「そんな事ばっか言ってると一生童貞のままだぞ!」

「……うぅっ」

 直弥の言葉に優弥もさすがに言葉を失った。

 悔しそうに唸りながら優弥は何を思ったのかさらにギュッと栞を抱き寄せた。

「しーちゃんとやる!」

「はぁぁぁ!?」

 直弥はあんぐりと口を開けたまま固まった。

(何これーどうしてこーなるのぉ?)

 今度こそ本気でなんとしなくちゃいけないと顔を上げた。

 さっきまで新聞を読んでいた拓弥もさすがにマズイと思ったのか神妙な顔つきでこっちを見ている。

「(た・す・け・て)」

 栞は口パクで拓弥に助けを求めた。

「っだー!こんのバカがっ!栞はお前の姉ちゃんだろうが!くだらねぇこと言ってないでさっさと着替えてこいっ!」

 さすがにここにきてキレた直弥は優弥の制服の襟を掴むと勢いよく頭を平手で叩いた。

「姉ちゃんだろうがエッチぐらい出来んだろー!」

 栞から引き剥がされまいとして優弥は抵抗した。

(エッチぐらいって…あぉもうそれより離してよー)

 直弥が激しく優弥の体を揺するたびに栞の体も大きく揺れて思わず流しに手を付いて体を支えた。

「AVの見すぎだ!バーカ!拓弥もこのバカに何とか言ってやれよっ」

 直弥はもう一度優弥の頭を叩く。

 栞はドキッとして慌てて拓弥の顔を見た。

 見ればぎこちないポーカーフェイスをしている。

「いつまでもくだらない事やってないで早く飯にしろよ。腹減ってんだ。優弥もさっさと着替えて来い。飯抜きにするぞ」

(何にも言えないよねぇ…やっちゃってる本人だもんねぇ)

 栞の耳にはそれは拓弥の口から出た苦し紛れのセリフにしか聞こえなかった。

 だが兄弟二人は「フンッ」と言いながらもそれぞれ大人しく手を離した。


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