『美坂家の秘め事』64
「やだ…拓兄…」
息が掛かるほど近づいた拓弥の体を両手で押し返すがビクともしない。
「栞緊張してるの?それとも怖いの?」
体を強張らせる栞の耳元で拓弥が囁いた。
囁かれるたびに熱い息が耳に掛かり唇が耳に触れる。
(もう…ウソ…こんなの信じられない…)
栞は徐々に自分の体が熱くなっていくのを感じていた。
ぴったりと覆いかぶさるように重ねられた体、シャツ越しでもはっきり感じる拓弥の胸の鼓動。
胸を押し返していた手を掴まれた。
「どうした?脈が早いな」
手首を掴んでいる拓弥が囁くが答えられず横を向く。
「思い出してるんだろ?あの日のこと」
栞は体をビクッとさせた。
忘れるはずがない。
忘れたくても自分の意志とは関係なく体が覚えてしまっている。
「俺は覚えてるよ。栞の白い肌、感じてくると薄っすらピンク色になって、聞いた事もない可愛い声出してたよな?」
ゆっくりと静かに囁かれる。
まるで栞の記憶を呼び起こそうとしているみたいだ。
―64/138―
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]