『美坂家の秘め事』54

 拓弥がリモコンを操作してガレージのシャッターを開ける。

 車三台の駐車スペースと物置も兼ねているガレージは一見倉庫のように見える。

 シャッターが上がりきると拓弥は慣れた操作で車を所定の場所に駐車した。

 センサー式の照明が反応して中を明るく照らすはずが暗いままで二人で辺りを見渡す。

「拓兄…電気点かないみたいだけど…」

「電球切れたかもな」

 拓弥が車を降りながら呟いた。

 栞もドアを開けると車内のライトに頼るように慎重に車から降りた。

「気をつけろよ」

 車の反対側から拓弥の声がして栞は短く答えた。

(慣れてるから大丈夫でしょ)

 歩き出そうとして栞は足を踏み出せずにいた。

 シャッターが閉まって頼りにしていた外からの街灯の明かりすらも絶たれてガレージは完全な暗闇に包まれた。

(こ、これは怖い…)

 さすがに小さい頃から慣れているとはいえ真っ暗な中を手探りで裏口まで歩いて行くのは怖い。

 何もない場所ならまだいいが自転車やらスキー板、バーベーキューコンロなど季節物が置いてある。

「栞?大丈夫か?」

「う、うん…」

 答えたものの足は一歩も動かずに降りた所に立ち止まったままだった。

 気配で拓弥が歩いているのは分かる。

 早く行かないとこんな暗闇に一人残されてしまう、そう思うと栞はさらに怖さが増した。 

「全然大丈夫じゃないみたいだけど?」

 すぐ後ろから声が聞こえて振り返る。

 暗闇に慣れてきた目で拓弥の姿を捉える事が出来てホッとする。


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