『美坂家の秘め事』43

「しーちゃんシャワー浴びたの?髪が濡れてる」

 優弥は栞の濡れた髪の束に触れながら首を傾げた。

 確かに濡れてはいたけれどそれは先の方だけだった。

「う、うん。汗かいちゃって…」

「汗…?」

(あんのバカ!ちょっとは頭使えー)

 思いがけない指摘を受けて動揺したのか栞は見事なまでに事実を言った。

 三月にシャワーを浴びなきゃいけなくなるほど汗を掻くにはそうとう運動しなければいけない。

 優弥が疑問に思うのも当然だ。

 シスコン栞ラブの優弥ならなおの事だった。

「ダイエット!そう、ダイエットしようと思ってージョギングしたら汗掻いちゃったの」

 栞は大げさな手振りを交えながら苦し紛れな言い訳をした。

 拓弥は表情を崩すことなく心の中でため息を吐いた。

「そっか。でもしーちゃんはダイエットの必要なんかないよ!」

 シスコンバカっぷりを発揮させて優弥がニッコリ笑う。

 それに釣られるようにして栞も笑顔を作る。

「そ、そうかな?」

「そうだよー。しーちゃんは今のままで十分可愛いのにそれ以上可愛くなったら心配で外に出せないよ」

(おーい弟よ。それは親父か俺のセリフだぞ)

 まだ高校生のくせに一人前のセリフを言う優弥に心の中で突っ込んだ。

 けれどいくら過度なシスコンでも生意気なセリフを言う男でも年の離れた弟は無条件に可愛い。

 拓弥は栞と優弥のやり取りをほほえましいとさえ思った。

「二人も早く着替えて来いよー」

 拓弥はようやく兄らしく妹弟に声を掛けた。


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