『美坂家の秘め事』44

「あーもう食えねぇー」

「当たり前だ!つーかもう食うな!」

「お金足りなくなるかと思ってヒヤヒヤしたよー」

 三人で回転寿司を出て優弥は満足そうに腹を撫でた。

 栞は家計用の財布を覗き込んでため息をついた。

 一万円札一枚と千円札が数枚入っていたのにきれいに空になっている。

「お前さーいつからトロとかウニとかイクラ食うようになったの?」

 拓弥は八人乗りのワゴンの運転席に乗り込んだ。

 栞と拓弥は揃って後部座席に乗り込む。

「直兄がいたら絶対お金足りなかった」

「俺も大人になったて事じゃん?」

 自慢気な優弥の顔に兄と姉は複雑な笑顔を返した。

「サビ抜きの玉子とかっぱ巻きとシーチキン食べて喜んでたあの頃が懐かしいよねー」

 栞は思い出したようにケタケタと笑った。

「太巻きの具だけ食ってよくお袋に怒られてたよな?」

 拓弥がエンジンを掛けて振り返った。

 栞は思いだした!とばかりに手を叩いて言葉を続けた。

「そうそう〜優弥の残したご飯しか食べられないって怒ってたよねー」

「しーちゃんも拓兄もいつの話してんだよ!」

 二人にからかわれた優弥が子供っぽく頬を膨らませた。

 その様子を見て二人が声を殺して笑う。

「俺にとってはいくつになっても可愛い弟って事だよ」

 拓弥は腕を伸ばして優弥の頭を撫でた。

 優弥がうっとうしそうに手を払いのけると拓弥は肩をすくめてハンドルを握ると車を発進させた。

「優くん、怒んないの」

 栞は優弥の顔を覗き込んでニコッと笑った。

 優弥は今までの仏頂面も消えて笑顔に戻ると栞に寄り添うようにシートに体を預けた。


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