『美坂家の秘め事』41

(やっぱり気まずい空気だな…)

 何となく点いてるテレビがそれを誤魔化してはいる。

 拓弥はテレビを見ているフリをして栞を視線の端で捉えた。

 さっきまで自分の下で喘いでしがみ付いてた女はもう妹の顔をしている。

(すげぇよな…もういつも通りかよ)

 少々ガッカリしたのには理由があった。

 拓弥の頭の中ではそれを切り出そうか止めておこうか激しい葛藤が起きていた。

 けれど切り出すのであればもう少し確信が欲しい。

「栞、あのさ…」

「私着替えて来るね」

 二人の声が重なった。

 立ち上がった栞が拓弥の方を向いている。

 拓弥も足を組みながら栞の方を向いていた。

「お、おお…」

 拓弥は失敗したと思ったが顔には出さず返事をした。

「今、何か言わなかった?」

「あ…ゆ、優弥が帰って来るから着替えて来いって…」

 苦し紛れの言い訳を口にした。

 栞はそれに対して返事を返さずに歩き始めた。

 もう時刻は18時15分もう少しで優弥も帰って来る。

 もうチャンスは今しかないと拓弥は後ろを通り過ぎようとする栞の腕を掴んだ。

「な、なに…」

 栞の驚いた声、掴んだ腕は強張っているのが分かる。

「あのさ…聞きたいんだけど」

 一旦言葉を切って唾を飲み込んだ。

 座ったままの拓弥と栞の視線が絡んだままどちからも外そうとはしなかった。

「俺と…」

「ただいまー」

 また声が重なった。

 今度は男の声が二つ、一方の声は玄関から聞こえて来た。


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