『美坂家の秘め事』40
低めに設定したお湯が火照った体を少し鎮めてくれた。
タオルで体を拭きながら鏡に映る自分の姿を眺めた。
白い肌に散る赤い痕は情事の証。
「ほんとにしちゃったよー」
体と一緒に頭も冷えて急に事の重大さに動悸がする。
ブラコンではないけど兄として好きだった。
けれどそれは男として好きとかセックスしたいとかそんな風に思ったことは一度もない。
(絶対ヤバイ…)
心の中の気持ちは後悔ではなく不安。
現状への不安ではなく未来への不安。
「あぁ…一回だけ一回だけだと思ったのに…」
栞はブツブツ呟きながらリビングへ向かった。
「水飲むだろ?」
拓弥が着替えを済ませてソファに座っていた。
テーブルの上に置かれた水を持つと拓弥の後ろを通り過ぎた。
栞はチラッと拓弥に視線をやったが拓弥は振り返りもしなかった。
栞もソファに上がって胡坐を掻いて座った。
またさっきと同じように見てもいないテレビが付いている。
「栞」
「な、何?」
(しまった力みすぎた…)
変に意識しすぎて声が裏返ってしまった。
拓弥は特に気にすることもなく話を続けた。
「夕飯作るの面倒だろ優弥帰ったら寿司食いにいこーぜ。もちろん回るやつだけど」
拓弥は顔の横で手首をクルクル回している。
(もう普段通りだ…なんだそんなものなのか)
栞は拓弥の様子に少しホッとしたようなけれど心のどこかでがっかりしたような不思議な気持ちだった。
「100円じゃないのがいーんだけどな」
「あぁ、直弥がいねーから普通んとこ。アイツ高いやつしか食わねぇからなー」
「確かにねー」
二人とも顔を見合わせずテレビに顔を向けたまま声を出して笑った。
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