『美坂家の秘め事』38

(あー…本当にしちゃった)

 久しぶりの倦怠感にぐったりしながらうつ伏せに寝転がった。

 ぬくもりのない場所を探して体をずらす。

 冷たいシーツの感触が直接肌に触れると火照った体がクールダウンしていくような気がした。

(すごい気持ちよかった…)

 久しぶりのエッチは今までのどの男よりも上手だった。

「栞、起きれるか?」

 ベッドに腰掛けた拓弥が手櫛で髪を梳かす。

 恋人でもない女にエッチの後優しくする男はいない。

 なぜかくすぐったい感じがした。

「うん…」

 気だるい体を起こすと上着を差し出された。

 何も言わずに受け取って腕を通す。

 ベッドに腰掛けた拓弥はズボンだけ履いて上半身裸のままタバコを咥えている。

 こんなセフレがいたらきっと恋人なんかいらない。

「お前、髪ぐちゃぐちゃだな」

 拓弥はタバコを咥えたまま両手で栞の髪を直した。

 栞はチラリと拓弥の表情を窺った。

 煙たいのか目を細めながら髪を直している手元を見ている。

 タバコの匂いに交じって柑橘系の匂いがする。

「拓兄…シャワー浴びたの?」

「ん?あぁ…汗でベタベタだったからな」

 髪から雫がポタポタと落ちて引き締まった体の上を伝う。

(無駄にいい男すぎてなんか逆にムカツク)

 顔も良くてエッチも上手くてアフターサービスも完璧で…。

「私もシャワー浴びてくる」

「おぉ、あんま時間ねぇぞ」

「ん…分かった」

 時計を確認する、17時45分。

 足早に部屋を出てドアを閉めると足を止めた。

(この後味の悪さと切なさは兄妹だからかな…)


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