『美坂家の秘め事』96

「んっ…」

 目を開けると刺すような眩しい光りに思わず目を閉じた。

(あれ…あ…寝てたんだ)

 部屋の電気を点けっ放しで寝てしまった事を思い出すと今度は注意深く目を開けた。

 眩しさにやや目を細めながら携帯を手探りで探す。

「何時なんだろ」

 一体どのくらい寝てたんだろうと確認しようと思うのにちっとも携帯が見つからない。

 諦めて部屋の時計を見ようと顔を上げた。

「1時過ぎだよ」

「そっかぁ…結構寝ちゃったなぁ」

(確か優くんが部屋を出たのが10時半くらい…)

 当たり前のように返事を返したがハッとして慌てて体を起こして振り返った。

「おはよ」

「何やってるのっ!?」

 ベッドの足元の方に拓弥が腰掛けているのを見て目を丸くした。

 普通に挨拶をする拓弥に向かって叫んだ声が裏返ってしまったくらい驚いている。

「しーっ…起きるだろ」

 拓弥は咄嗟に栞の口を覆い声を潜めた。

 だが栞はそんなこともろともせずに手を引き剥がすと拓弥を睨みつけた。

「何してんの!」

 もちろん声は囁くような声だがその口調はかなり強い。

 いくら鍵が掛かっていない部屋とはいえ夜中に勝手に入るのはマナー違反だ。

 それは仲の良い兄弟の間でも暗黙のルール。

 鍵を掛けなくてはいけないようなヒミツは持たない、たとえ身内でも最低限のマナーは必要。

 それは美坂家の家訓。

「メールの返事来ないから」

 そう言う拓弥の手には栞の携帯がぶら下がっている。

 ストラップを摘んでブラブラど揺らしながらにっこり笑った。

「あんなメール送ってくるからでしょ?」

 ぶら下がった携帯を奪い返すとヘッドボードに置いた。

「かなり挙動不審だったからバレるんじゃないかとヒヤヒヤした」

 パジャマ姿の拓弥は長い足を組み両手はベッドに付いてクスクスと笑う。

 風呂に入ったばかりらしく髪が湿っている。

 普段は上げている前髪も今は下りていて瞳に掛かる前髪が色気を醸し出していた。

 思わずその横顔に見惚れていると拓弥と目が合った。

 目が合った瞬間フッと微笑まれてドクンと心臓が跳ねる。

(それ反則!そうやってフェロモン全開にするから…すぐ…)

 動けなくなるんでしょ…。

 と、心の中で呟きながら視線は外せなかった。


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