突然ノボリさんとクダリさんが、しばらくは家に帰ることが出来ないと言い出した。
どうやら何か大規模なイベントを行うらしく、それまでは準備のためにギアステーションに泊まり込むのだとか。
「それは大変ですね…倒れないように気を付けてください」
「体調には万全を期すつもりでございます」
「栄養ドリンク常備!冷えピタとコーヒーも買い込んである!」
目をぎらぎらと光らせながら拳を握る2人に、これはイベントが始まる前にダウンしてしまうんじゃないかと不安になった。
「でも、そんなに大規模なイベントってちょっと楽しみですね。私も行ってみた」
「なまえ!!」
「なまえ様!!」
「ひ!?」
サラウンドで名前を叫ばれ縮み上がる。
何かマズいことを言っただろうか。
「イベント当日は絶対にバトルサブウェイに来てはいけません!」
「キケン!ダメ絶対!!」
「……地下鉄使って大規模に何をするんですか」
来てほしくないというだけなら、何か恥ずかしい格好したりするんだろうかと思うけど、危険って何だ危険って。
イベントという華やかな言葉にはあまりにも似つかわしくない。
「バトルを受け持つ駅員の昇任試験でございます」
「え、それイベントなんですか?」
試験がどうすればイベントになるんだ。
というか、それイベントにしてしまっていいんだろうか。
「昇任試験はバトルサブウェイの一大イベント!」
「バトル車両利用者の方々も年に一度とあって大変好評をいただいている催しでございます。筆記と考課をクリアした駅員が挑む、公開参加型の実技試験でして」
「バトルサブウェイにいる廃人や試験を受けない駅員、それにぼくたちサブウェイマスターと手当たり次第バトルして持ってるポイントを奪う!」
「とりあえず廃人じゃなくてせめて利用者って言いましょうか」
「えー、でもお客さんも自分たちのこと廃人って言ってる!」
「クラウドなどは時折『おいそこの廃人!』と隠すことなく怒鳴りますし」
利用者と駅員が随分と交流盛んな地下鉄である。
しかし中々、血気盛んな昇任試験もあったものだ。
「廃人の方々のモチベーションを上げるため、多くの受験者を退けた方にはBPを進呈し、わたくしたち含むすべての駅員を倒した方にはバトルサブウェイ新ルールの制定権が与えられます」
「仮にも公共機関がそれっていいんですか!?」
勝者への特典としては影響力が大きすぎる気がする。
ダイヤを大幅変更しろとか言われたらどうするつもりなんだ。
「でも、これ何代か前のサブウェイマスターが言い出したこと。今更ダメって言えない」
「そもそもこの権利が行使されたことはほとんどありません。限られた時間内にすべての駅員とわたくしたちを倒すということ自体かなりの難題ですし」
それはそうかもしれないけど。
サブウェイマスターのノボリさんとクダリさんは言わずもがなで、それ以前にバトル車両に務める鉄道員さんというのもかなり腕が立つのだ。
私もゲーム内で何度泣かされたことか。
「それに当日は終日スーパー車両のパーティー編成で臨みます。仮にも昇任試験、私たちも手を抜くわけにはまいりませんから」
「そのぶん試験日はみんなすっごく本気で殺気立つ!なまえがもし廃人と間違われてバトル挑まれたら、多分歯が立たない!」
「キバゴだけでは確実に突破不可能でしょう。ですから、当日は絶対にバトルサブウェイに来てはいけませんよ」
言われなくても、そんな恐ろしい所にキバゴを連れて行ったりなんかするもんか。
『ライモンシティ・ギアステーションで開催される年に一度の大イベント!バトル専門鉄道員による昇任試験実技の部!大いに盛り上がっております!!バトルサブウェイに集うトレーナーと鉄道員たちが入り乱れてのバトル会場、観客たちも熱気に包まれるほどの闘志で溢れているのがおわかりいただけるでしょうか!!』
わからねえよ。
思わずテレビのアナウンサーに向けて悪態をついてしまう。
キバゴが不思議そうにこちらを窺うが、不満は隠し切れない。
だって、あんなに危険だ何だと言っておいて、結局観客だって入れるんじゃない。
テレビ取材だって来るような大きなイベントなんじゃない。
どうして絶対来るななんて言って私を仲間外れにするんだ。
観客席があるならノボリさんやクダリさんの本気のバトルを見るくらいしたっていいじゃないか。
そっちがそういうことをするんなら、こっちにだって考えがある。
「キバゴ、行こうか」
「キバ!」
向かうのは
ギアステーションのホーム
バトルサブウェイ観客席
実家に帰らせていただきます