こっそり観客席に入ってノボリさんたちのバトルを見学しようと思っていたのに、ギアステーションに入った所で何かが吹っ飛ばされてきた。
攻撃を受けたポケモンだろうかと思い駆け寄ると、それは華麗に受け身を取ったノボリさんで。
ばっちりと目が合ってしまい、逃げ出す前にがっしりと腕を掴まれる。

「なまえ様、何故このような危険な場所に!」

所々血が出ているような満身創痍の人に言われると説得力満点だ。
けど、バトルサブウェイってトレーナーも巻き込んでこんなアグレッシブなポケモンバトルをする場所でしたっけ?
そもそも駅のホームでバトルするなよ。
乗って戦うんじゃないのか。

「危険な場所って、普通に観戦客だっているじゃないですか」
「それは……!」

言葉を遮って、こちらに吹っ飛ばされてきたノボリさんを追撃するように、近くの地面が次々に抉れていく。
だからホームでバトルするなよ、使えなくなったらどうするんだ。

「ちっ、オノノクス、あの雑魚を沈めてきなさい!」

うわ、ノボリさん本気でイラついてらっしゃる。
オノノクスもマスターの命令に待ってましたとばかりに飛び出していく。
そう言えばあの子の特性って闘争心だった。

「確かに観戦客は多くいらっしゃいます。わたくしたちも、最低限の安全は確保したつもりです」

最低限、という言葉がやたらと強調されていた。
バトルが行われている場所から少し離れた場所に、電車のベンチシートを模した座席が設けられている。
ポケモンジムなんかの観戦席に比べるといくらか不安が残るような安全性だけど、お客さんはそんなこと気にしてないような白熱ぶりだ。
突発的な事態に備えてなのか、傍らにポケモンを出しているけど。

私とノボリさんが話している間にも、ポケモンやトレーナーが入り乱れて戦っている音や観客の歓声が聞こえてくる。

「ですが、バトルに熱中するあまり技がそれて怪我をする危険もございます。先日申しました通り、ここにいるのは殺気立った廃人ばかり。キバゴでは防ぐことも難しいでしょう」
「大丈夫ですそれぐらい」
「わたくしが大丈夫ではございません!もしなまえ様がお怪我でもなさったら私そのトレーナー様の視界も未来も真っ暗にする自信がございます!」

目の前が真っ暗になった!ってやつか。
視界はともかく未来まで真っ暗にするって、一体何をするつもりなんだノボリさん。
しかも、普段ならいざ知らず、今日はテレビ中継も行われている。
こんな状況でノボリさんの犯行現場を撮られでもしたら、サブウェイマスターを辞めるどころの騒ぎじゃないだろうに。

「それはやめてください、これだけ人の目もありますし」
「でしたら今すぐにお帰り下さいまし!」

いつになく強い口調で言われ、私も反抗心がわいてくる。
確かに危険かもしれないけど、そんな頭ごなしに言わなくてもいいじゃないか。
みんなが楽しそうにバトルしている所を、近くで見せてくれたっていいじゃない。
サブウェイマスターのノボリさんが本気で戦う姿を見たいって思うのは、そんなに駄目なことなのか。

「嫌です大丈夫です帰りません」
「どうして聞き分けてくださらないのですか!少しはわたくしの気持ちもご理解くださいまし!今すぐに帰りなさい!」

両肩を掴まれ正面から怒鳴られて、思わず涙腺が緩む。
ぶわ、と涙があふれた。

「う、…っく」
「え、あ、なまえ、様」

途端におろおろとノボリさんがうろたえ始める。
ノボリさんの前で泣いたの何てこの世界に来た日以来だから、そりゃ驚きもするだろう。
しかし怒鳴られて泣き出すなんて、自分でもあまりの子供くささに呆れてしまう。
冷静に呆れて見せた所で、涙が止まるわけじゃないんだけど。

「っ……ノボリさんのバトル見たいって思うくらい、いいじゃないですかぁ」
「す、すみません、つい大きな声を」
「ノボリさんの格好いい姿、見せてくれたって、いいじゃないですかー!」

子供が駄々をこねるみたいに、泣きながら声を張り上げてしまった。

「なまえ様…。わかりました、わたくしなまえ様を守りながら戦います」
「え」

涙でぼやける視界の中、何故かノボリさんは感動したような顔で私の手を握りしめていた。
何か変なことを言ってしまっただろうか。

「是非一番近くで、わたくしの雄姿をご覧くださいまし!」
「え、いや、そこまでしてくれなくても」

泣いて我が儘を言っておきながら何だけど、流石に迷惑だと思われるのは忍びない。
しかしノボリさんは優しげな笑みを浮かべて私の言葉を封殺した。

「ご安心をなまえ様。危害が及ぶ前に一掃いたします」
「ちょっとノボリさん何を」

する気なんですか、と言う前に、のっしのっしと何かをやり遂げた顔で帰ってきたオノノクスに向けて、再びノボリさんが支持を出した。

「オノノクス、じしんで雑魚どもをまとめて沈めなさい!!」

ちゃっかりとシャンデラにまもるを支持した後、ギアステーションを潰す気なのかと思うほどの振動がトレーナーとポケモンたちを襲った。
確かにノボリさんの言う雑魚は一掃されたのかもしれないけど。

だから、駅は大切にしましょうよ!



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